2018年3月5日(月)、コープ自然派兵庫(ビジョン未来主催)では「祝福(いのり)の海」上映会を開催。福島原発事故から8年目を迎え、どのように生きるかなどについて東条雅之監督と語り合いました。
誰もが平和に暮らすには
映画「祝福の海」は出産シーンから始まります。91歳の助産師は70年間に4000人の赤ちゃんを取り上げたということで、命の誕生の神秘について話します。
東条監督は1984年大阪市生まれ。大学時代に貧困問題に関心をもち、2007年にアジア・アフリカ10数ヵ国を旅しました。そして、想像以上に世界は多様性に満ちていることを実感。同時に先進国の発展が途上国の貧困問題や環境破壊に繋がっていることに衝撃を受けます。そして、誰かを犠牲にするのではなく、地球上のみんなが平和に暮らすにはどうしたらよいかと考え、足元から見つめようと帰国後、山口県で塩づくりをしながら自給自足的な暮らしを営む井上さん一家を訪ねました。
井上さん一家の暮らしは新鮮でした。庭で飼っている鶏の玉子を恐る恐るもらって玉子かけごはんを満面の笑顔でほおばり、ヤギの乳を飲む子どもたち。井上さんは伝統的な塩づくりを復活させ、塩を取り出すときの香りはどこか懐かしく、それは胎内の香りだったのではないかと話します。井上さん一家の暮らしに感動し、東条監督はカメラを回し始めました。
祝島の人たちの暮らし
東条監督は瀬戸内海の小さな島「祝島」とも出会い、海や山とともにある暮らしに感銘を受けますが、対岸には原発計画がすすめられていました。2009年、原発建設のための海の埋め立て工事が始められることになったのです。
映画に登場するのは、島で唯一の女性漁師・竹林さん、Uターンしてビワづくりの後継ぎをする國弘さん、氏本さんはUターンし耕作放棄地で放牧養豚を営んでいます。芳川さんは人と自然に魅せられて祝島に移住し自然食の食堂を経営。竹林さんは「海を売ってお金をもらおうと思わない。自分の命ある限り原発計画に反対し、山と海を守る」と語ります。漁師たちは10億8000万円の補償金の受け取りを拒否。東条監督は海の埋め立て工事が始まった現場でカメラを回しました。
3・11後の福島を訪ねる
2011年3月11日以降、東条監督は福島に通うようになりました。「福島原発事故では少なくとも広島原爆の168発分の放射性物質が放出された」と話す元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんも登場。福島県川俣町の佐藤幸子さんは鶏を飼い、米や野菜をつくり、薪ストーブで調理するという暮らしを営み、自然農を実践する「やまなみ農場」を運営していましたが、原発事故ですべてを失いました。5人の子どもたちを山形へ避難させ、自身は福島市に避難しています。
住職の田中徳雲さんのお寺は福島第一原発から17km地点にあり、福井県に避難を余儀なくされるも、お寺に通って地域の人たちに寄り添い続けました。保養キャンプを行う人たちも登場します。
知恵と力を出し合って
完成までに4年以上を費やし、編集・ナレーターも東条監督が担当。上映後、東条監督は、「日々の自分の選択が社会を変えるのではないか。そして、生きとし生けるものすべてがつながり合えば平和になると思う。これからはコミュニティづくりが大切。知恵や力を出し合いましょう」と話します。
参加者からは、「辺野古で自然が破壊されいくことに絶望していたが、この映画に希望を感じた」「子どもたちの笑顔や満ち足りた表情が印象的」「声をあげることも大切だが、怒りから社会を変えることは難しいのではないか」「日々の選択で社会を変えられることを友人たちにも伝えたい」などの感想が語られました。
Table Vol.368(2018年6月)