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くらしと社会

「投票の秘密」が守られない判決

「『投票の秘密』が守られない判決」ついて取り上げたところ、原告である中田泰博さん(コープ自然派おおさか組合員)への励ましのメッセージやもう少し詳しく知りたいとのお便りをいただきました。そこで、今号では裁判に至る経緯や裁判の意義について中田さんにお話を聴きました。

2月17日、大阪地裁法廷に向かう中田さんと支援者のみなさん。前列右が中田さん。

 

投票代筆者が限定される

2013年5月、「成年被後見人の選挙権・被選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律」が成立、公布されました(2013年6月30日施行)。これによって、成年被後見人は選挙権・被選挙権を持つことができるようになりました。しかし一方で、代理投票をする場合には代筆できる人は「投票事務従事者」に限定されることになりました。

中田さんは投票用紙に文字をうまく書けない障害があり、改正前は信頼する家族やヘルパーに代筆を依頼していました。ところが、この改正により代筆を見ず知らずの「投票事務従事者」に限定されたため、それには堪えられないと2016年の第24回参議院選では投票を断念しました。この選挙では「期日前投票」をするために豊中市役所に行き、ヘルパーに代筆させる旨を伝えると投票を認められず、7月10日の投票日には「守秘義務のある代筆者」として大川弁護士とともに投票所に赴きましたが、投票権を行使できませんでした。

投票の秘密を守るために

そこで、中田さんは代理人を「投票事務従事者」に限るのは憲法で保障された基本的人権の1つである「秘密投票権」の侵害だと国を相手に提訴しました。提訴後、2017年10月22日に第48回衆議院議員選挙、2018年4月22日に豊中市長選挙、大阪府議会議員選挙、豊中市議会議員補欠選挙、2019年4月7日に第19回統一地方選挙前半(大阪府知事選挙・大阪府議会議員選挙)、2019年4月21日に第19回統一地方選挙後半(豊中市議会議員選挙)の4回ありましたが、投票できたのは選挙管理委員の「ミス」による1回だけ、それ以外は期日前と投票日の2回ずつ合計6回断られました。「投票事務従事者」は公権力を持っているので中田さんは、その都度、投票所の係の人に「憲法15条4項の秘密投票には権力者に対する秘密が含まれている」と指摘しましたが、反応はありませんでした。なかでも、第19回統一地方選挙前半の期日前投票と投票日には市役所の通報で延べ8~9人の警察官が呼ばれ、精神的な苦痛を受けました。

中田さんは幼少時から政治に関心があり、22歳の時に市長選挙を手伝ったことを皮切りに、さまざまな選挙活動を行ってきました。「生活は政治です。でも、政治は障害者のことを忘れ去りがちなので選挙に積極的に関わりました」と中田さん。投票時には身体が好調なら自書し、不調なら親や友人、ヘルパーに代筆を頼んでいました。最近はマヒが強くなり、代筆の機会が増えているということです。

市民の自由や権利を守る

2020年2月17日、中田さんが提訴した裁判の判決が大阪地裁大法廷で言い渡されました。中田さんも支援者も弁護団も勝訴を確信していましたが、「訴えを全面的に棄却する」と裁判長。その後に読み上げられた判決文によると、憲法において「投票の秘密」が基本的人権として定められていることを確認しつつ、代理(代筆)投票をする者については、その権利が制約されることはやむを得ない。また、障害者をはじめとする「社会的弱者」は、家族・親
族や支援者から不当な干渉や圧力を受けやすく、それを公的に守るためには、政治的中立が確保される公務員である「投票事務従事者」が適任だとしました。さらに、障害者が「投票事務従事者」以外に代筆を依頼したいと選んだ者(家族・友人・ヘルパーなど)が、「適格性、中立性を有することを投票管理者が一人ひとり確認することはきわめて煩雑で困難である」として、「投票事務従事者」以外の者による代筆は認められないとしました。折しも「障害者差別解消法」が国会で論議されていたにも関わらず、「合理的配慮」が一切行われないまま「投票の秘密」が奪われてしまいました。

もちろん、家族や友人に代筆してもらうより「投票事務従事者」に代筆してもらいたいと願う人もいるでしょう。そういう人は「投票事務従事者」に代筆してもらえばよいのですが、中田さんは面識も付き合いもない人に代筆してもらうことには大いに抵抗があります。「代理を誰に頼むかを決めることを認め、障害を理由にその権利を奪わないでほしい。選挙制度においてさまざまな人たちがそれぞれの場所で数多くの問題に直面しています。民主主義の根幹をなす制度から排斥される人がいて良いのかを問うためにも、ぜひ、裁判に注目していただきたい」と中田さんは3月3日に控訴。控訴審は新型コロナウイルス感染拡大により、延期になっています。

「一見、反対が出ない、または反対が出にくい法律がつくられると大多数の人たちは賛成します。しかし、その陰で当然と思っていたことが呆気なくなくなることもあります。2013年の公選法改正は、成年後見人の選挙権・被選挙権を回復させるという意味ある改正でしたが、一方で、根拠もなく代筆者を選挙事務従事者に限るということで投票の秘密が守られなくなりました。これは障害者だけでなく、全市民に対しても言えることです」と中田さんは訴えます。控訴審の成り行きをぜひご注目ください。Webでは「障害者代筆投票訴訟を支える会」で検索、TwitterやFacebookでも情報発信しています。

Table Vol.418(2020年6月)

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