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くらしと社会

原発回帰と新しい戦前

東京電力福島第一原発事故から12年。「第12回さようなら原発1000人集会」がいたみホール(兵庫県伊丹市)で開催されました。メインゲストはジャーナリストの金平茂紀さん。コープ自然派兵庫も呼びかけ・賛同団体です。

報道局記者で「報道特集」ディレクターなどを務める金平茂紀さん。現場取材をもとに権力監視の姿勢を貫く飾らない人柄に多くのファンがいます

原発回帰とウクライナ

 原発事故により世界中が原発の危険性を再確認し、2023年にドイツは原発を全廃しましたが、当事者である日本はいまだ原発に依存。老朽原発を稼働し新設もすすめる原発回帰に大転換しました。

 金平茂紀さんは、いつにもまして語気を強めて話します。日本の医療、教育、福祉など、基本的人権をめぐる状況は悪くなる一方で歯止めが効きません。20世紀あるいは昭和の成長神話の万博、オリンピック、新幹線などに夢を描いた社会的な価値観の象徴が原発。これまで誰も行わなかった原発回帰に岸田政権は舵を切りました。

 金平さんは「ガザ、ウクライナで起きていることは決して他人事ではなく、近未来に起こることかもしれない」と言います。2007年以来、城壁で囲まれたガザは名古屋市ほどの面積に人口が密集し、水も食料も医療支援物資等も一切なく、人道危機が起きています。病院や救急車、国連施設、学校までもが空爆されて多くのいのちが奪われ、国連総長が「子どもの墓場だ」と発言するほどの状況。ガザ地区を実効支配する武装組織ハマス側からの発信が多いため、今起きている正確な情報を知るためには、どこから発信されているかが重要です。

戦後から新しい戦前に

 2002年末に安保関連三文書が改定されて日本は戦争ができる国になりました。2023年は歴史の分岐点で、日本の在り方が大きく変化した年。戦後的な価値を代表する方々が亡くなりました。大江健三郎さんはノーベル文学賞受賞の小説家で、戦後民主主義の価値を体現し「九条の会」を設立。音楽家の坂本龍一さんは、核兵器廃絶や脱原発運動を続け「「原発とは共存できない、もっと木を植えよう」と発信。環境問題、反戦、脱原発などを音楽を通して発信してきた忌野清志郎さんの追悼番組(2009年放送)で、坂本さんは「何でこんなに言いたい事が言えない不自由な国になったのか。何が怖いのだろうか。もっと言いたい事を言いましょうよ」と発言しましたが、あれから14年後の今、さらに自由がなくなり、ナショナリズムの高揚化や、メディアの御用化、具体的な戦争準備(南西諸島のミサイル配備等)もすすんでいます。次世代に投資すべき資材をも奪う代表的なものが原発回帰。金平さんは、「対米追従の利権構造がますます強くなっているのは戦前の象徴。ウクライナ戦争と安倍氏殺害事件をチャンスとしてこの国は動き出したと」と話し、憲法九条の根源的な精神である「戦わない意思」の価値が増しています。

手遅れになる前に

 2022年6月17日、最高裁第二小法廷は、東京電力福島第一原発事故により避難した住民らが国に損害賠償を求めた集団訴訟に対して、想定外で規制措置をとっても防げないため国に賠償責任はないという判決を出しました。金平さんは「歴史的な恥辱であり、最もひどい判決」と怒りをあらわにしました。福島の原発風評被害を払拭する事業にはジャニーズが使われ、電通・博報堂が関わり55億円もの莫大なお金が動いています。金平さんは「メディア、特にテレビが問題を見過ごし、あげるべき声をあげてこなかった責任」だと言います。

 そして、金平さんはウクライナで購入したプーチン大統領の顔写真入りトイレットペーパーを紹介し、運動というのは、相手を脱帽させる意思表示や、多くの人が面白がって参加するようなものが継続のカギだとアドバイス。「どんな社会にしたいのか、手遅れになる前にこの時代をしっかり認識したい」と語りました。

原発賠償ひょうご訴訟弁護団副団長の津久井進さん。6月17日の最高裁判決にも原発利権が大きく関わっていました

Table Vol.497(2024年1月)

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