山田正彦さんは大学卒業後、牧場経営や肉屋を経て弁護士に。1993年に衆議院議員初当選し5期務めました。2010年には菅内閣のもとで農林水産大臣に就任。2015年1月「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」設立。2017年7月「日本の種子(たね)を守る会」設立。

2019年11月22日(金)、コープ自然派奈良(理事会主催)では、TPPや「種子法」など、食の未来に関わる問題に精力的に取り組む山田正彦さん(元農林水産大臣)を迎えて講演会を開催、私たちが何をすべきかを考えました。

次々と改定される国内法

 2018年12月30日にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)が発効、2019年1月には実質5日間で半月分の牛肉の輸入増。2019年2月1日には日欧EPA(経済連携協定)が発効し、EU産豚肉の輸入量が5割増、チーズなど乳製品とワインの輸入量が3割増と続きます。そして、日米FTA(自由貿易協定)が2019年11月19日に国会を通過し、2020年1月1日から発効されることになりました。「日本の農業にとって大変な危機です。特に畜産は壊滅的な打撃を受ける恐れがあります。日本の自動車に対する25%報復関税を避けるために農産物は譲るだけ譲るしかないということでしたが、すでに政府は米国から300万トンもの遺伝子組み換えトウモロコシを追加輸入することを約束しています。私が農水大臣のとき、TPPの影響で食糧自給率は14%に落ち込むと試算しましたが、そうなりかねません」と山田さんは話します。

 TPP発効を前に日本は次々と国内法を改定。主要農産物種子法廃止、農業競争力強化支援法制定、水道法改定(民営化)、カルタヘナ法改定、市場法改定(事実上廃止)、漁業法改定などです。背景には、2016年、TPP協定に署名する際に並行会議で交わした日米交換文書があり、この文書の最後には「日本政府は投資家の要望を聞いて、各省庁に検討させ必要なものは規制改革会議に付託し、同規制改革会議の提言に従う」と記載されています。

「種子法」廃止でどうなる?

 「主要農産物種子法」(種子法)は2017年2月10日に閣議決定された廃止法案が国会に提出されました。「種子法」とは、主要農産物であるコメ、麦、大豆の伝統的な種子は国が管理し、各都道府県に原種・原原種の維持、優良品種の選定および奨励、審査を義務付けた法律。コメの種子については各地の農業試験場で雑種の混入や不良な種を取り除いた後、種苗農家に増殖させ、優良な品種を公共品種として安価で提供してきました。そして、コメだけでも300種以上を安定的に提供できたのですが、「種子法」廃止と一体となった「農業競争力強化支援法」が2018年8月に成立し、銘柄を数種に絞られる怖れがあります。「種子法」廃止の目的として民間の活力を促すことが挙げられていますが、すでに、三井化学「みつひかり」、住友化学「つくばSD」、日本モンサント「とねのめぐみ」が公共品種の4~10倍の価格で販売され、「農業競争力支援法」によると、これまで蓄積してきたコメなどの原種・原原種、優良品種の知見をすべて民間に提供することになっています。そして、「種子法」廃止により農家は企業と契約してロイヤリティを支払い、指定された肥料や農薬などを購入することや出荷先の指定が義務付けられる怖れがあります。さらに、自家採種について一律化する法律が必要だと、2020年の通常国会で「自家採種禁止法」が提出される予定です。米国やカナダでは主要穀物については公共品種、自家採種が基本で、小農民と農民の種子の権利は「食料農業植物遺伝資源条約」によって守られ、日本も批准しています。

表示されないまま食卓に

 1999年、モンサントは日本のコシヒカリで除草剤ラウンドアップ(主要成分グリホサート)耐性遺伝子組み換え種子を開発し、茨城県の同社実験圃場で試験栽培を開始。2001年には愛知県農業試験場と共同研究を始め、「祭り晴」での遺伝子組み換えコメの栽培に成功しました。日本の(独)農研機構は遺伝子組み換えWRKY45を開発して隔離圃場で試験栽培を続け、政府はコメだけでも70種類の遺伝子組み換え種子の一般圃場での試験栽培を認めています。

 TPP協定では日本独自の遺伝子組み換え表示ができなくなります。これまで5%以下の混入については「遺伝子組み換えでない」という表示が認められていましたが、これから0%でなければ表示できなくなります。また、牛肉、豚肉、鶏肉の飼料にわずかでも遺伝子組み換えのものが混入していれば、「エサにも遺伝子組み換えの飼料は使ってない」という表示ができなくなります。

 さらに、米国では売れないゲノム編集された大豆、ナタネが安全審査や表示も義務付けないまま輸入されることになりました。ゲノム編集食品はEUをはじめ世界の多くの国では栽培も輸入も禁止しています。

世界の流れと真逆の日本

 2017年12月、政府はドイツやフランス、イタリアなどでは使用禁止もしくは3年以内に使用禁止となっている除草剤ラウンドアップの主成分であるグリホサートの残留許容量を大幅緩和(最大400倍)、国産大豆の乾燥の手間を減らすため、収穫前にラウンドアップを散布しているという実例もあり、ラウンドアップが100円ショップで売られているという現状です。山田さんはこの3月、国会議員23名を含む28人の毛髪をフランスのクズサイエンスに送り検査してもらったところ、グリホサート(代謝物もふくむ)が28人中、19人から検出されました。

 世界の流れはここ2~3年で大きく変わっています。2018年8月、モンサントの除草剤ラウンドアップが原因で悪性リンパ腫を発症したと訴えていた米国の末期がん男性・ジョンソンさんに対して、サンフランシスコ裁判所はモンサントに約330億円の支払いを命じました。ジョンソンさんは校庭整備の仕事をしていてラウンドアップを繰り返し使っていました。このニュースは世界を駆け巡り、多くの国でラウンドアップの即時販売禁止、使用制限が相次ぎましたが、日本ではほとんど報道されていません。その後もグリホサートに関わる裁判が1万3000件も起き、バイエルンは約4兆円の賠償金を免れないだろうと言われています。

大きく変わる世界の動向

 山田さんは日本の現状を変えたいと、米国・カリフォルニア州在住のゼン・ハニーカットさんを訪ねました。彼女は遺伝子組み換え食品が人間にもたらす危険性を訴え、オーガニック食品を摂ることの大切さを米国の消費者に広めたことで知られています(12月11日、コープ自然派などで講演会を開催)。

 ゼンさんたちの働きかけによって、米国では2016年から遺伝子組み換え農産物は頭打ちで現在は年10%の割合で有機農産物の生産が伸びています。EUでは年7%の割合で有機農産物が増加。ロシアでは2014年から本格的に有機栽培に取り組み、2016年に法律で遺伝子組み換えの輸入も生産も禁止しました。中国でも2017年に遺伝子組み換え農産物の輸入も栽培も禁止し、有機農業が急速に成長を遂げています。韓国ではラウンドアップ使用を禁止、有機栽培農家は日本の20倍でほとんどの小中高の学校給食が無償・有機栽培の食材になっています。

私たちにできることは

 突然の「種子法」廃止に対して、JAや農家が不安の声を上げるなか、大阪府、和歌山県、奈良県などは「種子法」廃止の方針に沿って優良なコメの認証制度をすべてではありませんが、廃止しました。一方で、各地でさまざまな動きが起きていることを山田さんは紹介。種子法に代わる種子条例がまず新潟県でつくられ、兵庫、埼玉、山形、富山、北海道、福井、岐阜、宮崎、鳥取、長野、栃木県、滋賀、熊本、島根、鹿児島、三重で成立しました。「2000年4月に施行された地方分権一括法によって、条例は罰則を定めることができるほど強い権限を持っています。私たちには自治体に請願や意見を届ける権利があります。現在住んでいる市町村議会で県に対して種子条例をつくってほしい旨の意見書を出してほしいとお願いしましょう」と山田さんは話します。

司会・進行はコープ自然派奈良・米田常任理事。

Table Vol.407(2020年1月)