今、この国の民主主義が大きく揺らいでいます。背景には何があり、どうしたらよいのか。それを解明する1つの視点として、コープ自然派奈良では、2019年3月7日(木)、二文字理明さん(大阪教育大学名誉教授)を招き、スウェーデンの民主主義・教育・福祉について語っていただきました。
民主主義とは何か
コープ自然派奈良では昨年の第16回通常総代会で「民主主義を守りたい」を特別決議しました。その内容は、原発再稼働、米軍基地、軍事増強と社会福祉の切り捨て、解釈改憲、秘密保護法制定、種子法廃止、TPP参加などが十分な論議がされないまま決められていることに対して、一人ひとりが大切にされる社会を未来に手渡したいとの決意を込めたものです。民主主義が根本から揺らいでいる今、社会の軸は本来どうあるべきなのかをスウェーデンとの比較をもとに考えようと学習会は企画されました。
二文字さんはスウェーデンにおける民主主義とは、「すべての人は同じ価値があります。子どもも大人と同じ価値を持っています。すべての人には、社会に参画し社会を良くしていこうという権利があります。すべての人には、意見を表明する権利を常に持っています。望むことを実現するためには、同じ意見の人を集めなければなりません」とサッサ・ブーレグレーン(スウェーデンの作家、「10歳からの民主主義レッスン」などの著者)の言葉で定義。民主主義とは国民(市民)一人ひとりが主人公であり、民主主義を担う国民(市民)の育成が必要だと二文字さんは話します。
スウェーデンの教育制度
スウェーデン社会の根本原理は、「自立・自己の確立〈個人主義〉」、「分かち合う福祉〈所得の平等〉」、「社会的弱者の救済と連帯〈相互扶助〉」。福祉思想・理念としては、「脱中央集権化(地方分権化)」「ノーマライゼーション思想」「公正・平等・連帯」などを掲げています。
そして、このような理念を実現するには、それを支える人材育成が必要です。スウェーデンでは基礎学校・高等学校・大学すべて無料。民主主義社会の一員として自分の行動に責任がとれる国民を育てることを学校教育の目標とし、「公正・平等・連帯」を掲げた教育が実践されています。「成人教育の充実」「男女平等教育の徹底」などはスウェーデンの教育の特長ですが、なかでも際立った点として、二文字さんは「リカレント教育」を挙げます。
就学前教育・基礎学校・高等学校・大学と続く一連の教育制度に対して、スウェーデンでは複数の進学経路があります。例えば、高校卒業時に将来何になりたいかわからない場合は大学には行かず、人生の途中でどうしてもこの仕事に就きたいと思うときに大学に入るというようにやり直しができる体制が整っているのです。これはウーロフ・パルメ(スウェーデンの政治家。2期にわたって首相を務める)が教育大臣のときに積極的に推進し、OECDの1973年の報告書で世界に広がりました。教育と労働の間を自由に行き来できる「リカレント教育」は教育の民主化(公正・平等・連帯)を実現するものでもあります。
また、1955年以降、理科系と社会科系を統合した総合教科としてオリエンテーリング科を設置、スウェーデンで始まったスポーツ競技としてのオリエンテーリングになぞらえて、「自分さがし」を目的としています。具体的には現代社会のホットな問題をテーマとし、性教育、障がい者問題、高齢者問題、移民の問題、アルコール・麻薬中毒問題などの解決について考える中でいろいろな角度から自己を認識していきます。日本では小学校低学年の教科として社会科と理科を合体した「生活科」がありますが、どちらかと言えば周囲の状況にいかに合わせるかが重視されているようです。
民主主義を実現するには
規制緩和・民営化・競争原理という世界的な潮流はスウェーデンにおいても例外ではありません。しかし、高福祉・高負担の福祉国家であるという原則は本質的に変わらず、社会的弱者であっても人間としての尊厳を失うことなく生きていける「生活のセーフティネット」が存在しています。また、日本と大きく異なるのは投票率の高さです。日本の投票率は50%台なのに比べてスウェーデンの投票率は90%、最近はやや低下傾向だということですが、それでも80%を超えていて政治への関心の高さがうかがえます。外国人でも3年間住めば地方選挙では投票できるなど、政治参加への環境も整えられています。
「民主主義とは定義を掲げるだけでは意味がなく、定義を実現するためにはどのように行動するか、それをどうつなげていくかが大切。そして、普通の人が主人公である社会、国民(市民)一人ひとりが社会をつくるには、それを実現する法律を定めることも必要です」と二文字さん。コープ自然派奈良の特別決議にも触れ、この素晴らしい決議を実現するにはどのように行動するかが問われていると話しました。
Table Vol.390(2019年4月)