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巻頭インタビュー

未来にどんな社会を残したいのか(NO YOUTH NO JAPAN 代表 能條 桃子さん)

政治家やマスコミの国民主権を忘れたかのようなふるまいが目に余る日本。わたしたちが残したい民主的な未来をつくるために何ができるでしょうか。考えるヒントを能條桃子さんに聞きました。

能條 桃子さん

デンマークでの経験

 大学3年生になった瞬間に、みんなリクルートスーツを着て就職活動まっしぐら。女子は当たり前のように子育てすることを前提に企業選び。そんな状況に違和感があり、社会に出てからの良い未来を想像できないと感じていました。同時に、ちょうど18歳になった年に「18歳選挙権」ができたのですが、周りの友人は全然投票に行っていない。選挙のボランティアをすると「意識高いね」と言われる。そんな政治への関心が低い日本を一度離れて、若い世代の投票率が80%を超え、幸福度ランキングが高いという北欧社会を体験してみたいと思い、2019年にデンマークのフォルケホイスコーレという学校に留学しました。

 フォルケホイスコーレは民主主義のための学校と言われていて、全寮制で入学試験もテストも成績表もない自分の探求を重視する学校です。約百人で3か月から半年間ともに生活する中で民主主義的な思考を育みます。

 そこで感じたのは、ひとつは「声を上げやすい」こと。自分の意見を求められ、その意見がすごく大事にされる経験をして、日本では自分が何をしたいのか、どうありたいのかを他人や制度に委ねがちだったと感じました。もうひとつは、女性として生きることがこんなにも「身軽」なんだということです。日本では、痴漢に遭いたくないから電車で端の席に座る、夜はできるだけ電話をしながら歩くなど、危険を念頭に選択させられていることが多かった。デンマークでは男女一緒にいても、性的な目で見られる心配も女性らしさを求められることもすごく少ない。それまで日本で社会から暗黙的に押しつけられてきたジェンダー観を、無意識のうちに内面化してしまっていたことに気づきました。

 ちょうど留学中に選挙があったのですが、学校では昼食中も授業のときもみんな選挙の話をしていました。寮でも寝る前のくつろいだ時間に、ソファーに座ってみんなでポップコーンを食べながら党首討論を見ていたり。またデンマークでは、「みんなのための政治なんだから、分かりやすい言葉で説明しないといけないし、それができる人がいい政治家」という考え方があり、学歴などに関係なくみんな自分に関係のあることとして政治の話をしていることが印象的でした。その根底には、政治家と有権者は鏡であり、「いい有権者がいい政治家を育てる」という考えがあります。そのための努力もしている話を聞き、投票以外の行動をしていない自分を反省しました。

くらしと政治のつながりを伝えたい

 そこで、インスタグラムでの発信を始めました。もともと個人のアカウントで留学中の様子を発信していたので、インスタグラムなら幅広い人に見てもらえると考え、NO YOUTH NO JAPAN(ノーユースノージャパン、以下NYNJ)という名前で情報発信をはじめました。

 ちょうど参院選のタイミングだったので、それに向けたキャンペーンとしてはじめたのですが、投票日までの2週間でフォロワーが1万5000人に到達。実は関心を持っている若い人たちが一定数いるんだと手ごたえを感じ、その後も継続しています。

 NYNJではU30世代(30歳以下)を主な対象にしていますが、それは活動のきっかけとなった参院選の被選挙権が30歳以上であることも影響しています。自分たち世代の代表を出せないのであれば、せめて投票に行こうと呼びかけたのです。その後、2023年4月からは、自分たち世代の代表を出すべく「立候補年齢を引き下げるためのプロジェクト」として公共訴訟もはじめました。

 若い人の投票率は3割〜4割の間という状況ですが、社会課題に関心があり、その解決のために何かしたいと思っている人は6割を超えています。つまり、社会課題は解決したいけれど選挙には行かない層がいる。政治よりビジネスで解決したいという指向も強い世代です。でもビジネスだけで解決できることには限りがあり政治が必要なことも多い。そのつながりを伝えていけたらと思っています。

 ジェンダーも、気候変動も、移民難民の問題も、ひとつひとつに声をあげて解決に向かっていくことも大切ですが、根底には政治があります。政治が男性中心で、人権より経済成長を重視するような価値観のままなら、個別の問題解決も難しいですよね。そういう周辺の法律や制度や文化を変えていく活動をアドボカシー活動と呼んで、直接的な活動と両輪で進めています。選挙と選挙の間にどうやって意識を耕していけるかがカギだと思っています。

声をあげたら変えられる

 NYNJで活動を行う中で自分も主体的に活動をしたいと、個人のアクティビストとして気候変動とジェンダーの分野で活動をはじめました。2021年2月、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長をしていた森喜朗さんが「女性が入る会議は時間がかかる」と女性蔑視発言をしたという報道があり、少なくとも組織委員会や東京都という組織の任命責任が問われるべきだと思い署名活動を行いました。想定以上の15万筆が集まり、森さんは辞任することに。この問題に怒っている人たちの存在を可視化できたこと、ちゃんと声をあげたら変えられると示せたことは、私にとって成功体験となりました。私には、ちょっとした成功でもその喜びを次の活動のエネルギーにしてしまう楽天的なところがあって、NYNJのメンバーには「ハッピー野郎」と呼ばれています(笑)。

NO YOUTH NO JAPAN

自分たちの代表を議会に

 2021年秋の衆院選では、女性候補者の少なさに気がつきました。何かできないかと地方議会の状況を調べると、3万人の地方議員うち女性は15%しかいません。しかも60代以上の男性が全体の56%を占め、20代30代の女性は1%未満。自分たちの代表が地方議会にはいないことを実感し、2022年夏にFIFTYS PROJECT(フィフティーズプロジェクト)をはじめました。20代30代の女性、Xジェンダー、ノンバイナリーの候補者を募集して、その人たちを応援するプロジェクトです。政党や所属には関わらず、ジェンダー平等につながる4つの政策(※)に賛同することを条件にしています。はじめての選挙となる2023年の統一地方選では、29人が立候補し24人当選。その後の選挙も含め、現在18都道府県に32人の当選者がいます。横のつながりで支え合う力の大きさを実感するとともに、関わった人が政治への関心を継続してくれていることを嬉しく感じています。

わたしたちにできること

 ニュースを追うところからはじまって、新聞への投稿、パブリックコメント、署名、陳情、選挙のボランティア、立候補など、私たちにできることはたくさんあります。でもいきなり自分の意見を表明するのはハードルが高いなら、賛同できるものをみつけて参加してみる、手伝ってみることからはじめるのはどうでしょうか。ほとんどの活動は常に人手不足で、やりたいことよりできることのほうが少ない状態なので、力になれることがきっとあると思います。生協はまさにそうですよね。仲間がいれば力を合わせて大きなことができます。

 それと、「〇〇反対」というふうに真正面から闘うと疲れてしまうので、私たちは私たちの別の道を作ろうというやり方が私は好きです。批判やけんかが苦手な「闘いたくない世代」が、なごやかなムードのまま社会を変える方法論を目指したい。それは、弱いままで幸せになりたいというフェミニズムにも通じるところがあると思います。


※4つの政策
1.選択的夫婦別姓・婚姻の平等(同性婚)の実現に賛成、推進する
2.包括的性教育の普及、経口避妊薬アクセス改善に賛成、推進する
3.トランスジェンダー差別に反対する
4.女性議員を増やすためのクオータ制など格差是正の取り組みに賛成する

Table Vol.498(2024年2月)

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