音海地区のさまざまな動きについて熱い思いを込めて話す毎日新聞記者・高橋一隆さん。「記者とは24時間365日、足を使ってしっかり取材しなければならない」と話します。

コープ自然派奈良(脱原発委員会主催)は、毎日新聞記者・高橋一隆さんを講師に学習会を開催。高橋さんには、原発立地地区の暮らしや新たな動き、そして、記者の使命などについて熱く語っていただきました。

立地地区を取材し続ける

 毎日新聞記者として25年。福井県敦賀駐在に赴任して高速増殖原型炉もんじゅのナトリウム火災事故に遭遇し、原発に関心を持つようになったという高橋さん。お話の冒頭で「原子力ほど技術革新が遅い産業はないと感じています。使用済み核燃料の処分方法がよくわからないまま稼働して半世紀。未だにどうにもなりません。このようものを子どもたちの世代に残すことは許されないし、容認もできません」と話します。

 福井県の立地自治体は電源立地交付金など原発関連収入が歳入の半分を占めます。地方交付税に頼らない独自の財源を築くには原発誘致は魅力的だった時代がかつてありました。そんな福井県の中でも高浜町音海(おとみ)地区はまさに「立地中の立地」。集落の玄関口に高浜原発があり、原発前の県道を通らなければ幹線道路はおろか、地区外に出ることができません。高橋さんは敦賀駐在を拠点に1時間40分ほど車を走らせて音海地区を取材し続けています。

音海地区で新たな動き

 50世帯の音海地区では1960年ころまで現金収入がほとんどなく、子どもたちに高等教育を受けさせることも難しい経済状態でした。そんな地区にとって原発用地として土地が高額で売却できることはまたとないチャンスでした。しかし、目先のものに現金を使い果たし、その後、何かと関西電力に頼るようになり、地区と関西電力は密接な関係になっていきました。

 こんな音海地区で新たな動きが生じたことを高橋さんはいち早く察知しました。2016年12月、運転開始から40年を超える高浜原発1・2号機の使用をさらに20年間延長することが原子力規制委員会で認められて半年後のことです。東京電力福島第1原発事故後の2012年6月、「原子炉等規制法」改定で原発の運転期間について1回限りの延長は認めるものの原則40年とすることが明記されました。高浜原発建設時、関西電力からは運転期間は30年ほどと聞いていたとのことで、住民は関西電力に説明を求めます。しかし、関西電力からは十分な説明が得られず、地区総会を開催することになりました。この地区では総会には全員参加が義務付けられています。地区総会では運転延長に反対の意見書が緊急動議として出されることを高橋さんは耳にしました。福井県ではこれまで原発に反対する動きは広がらず、なかでも音海地区は主に雇用の恩恵を受けています。小集落ゆえか同調圧力は強く、このような集落で運転延長に反対意見が言えるのだろうかと高橋さんは半信半疑でした。ところが、50世帯が参加した地区総会では緊急動議に賛同する声ばかりで、「高浜原発の運転延長に強く反対する」意見書は総意として採択されました。しかも、意見書の内容は極めて厳しいもので、そのまま県、町、関西電力に提出されたのです。

地区内で議論が活発に

 毎日新聞が翌日の朝刊で報道すると、これまでなかった動きに関西電力や県、町は大慌て。関西電力幹部は「説明する場を設けたい」と住民宅を訪問し、警察や海上保安部も調査に訪れました。住民の動きに高浜町長は「交付金25億円で町道を整備する」と、言外に意見書の取り下げを求めるかの対応をしました。しかし、住民の怒りは増幅し「運転延長反対」の立て看板を地区内の3ヵ所に設置しました。住民が立て看板を設置する写真も毎日新聞に掲載されました。「これまでなかった動きの背景には、福島原発事故で住民は不安を感じていました。さらに、脱サラしたり、定年退職で都会から帰郷した人たちの存在が大きいです。彼らは目の前にある原発の話題がタブーとされていることへの疑問を口にし、地区内で議論が活発になりました」と高橋さん。2017年1月8日、関西電力・高浜原発副所長など社員6人が地区の新年集会に初めて参加し、運転延長への理解を求めます。しかし、「運転期間が原則40年の米国では60年への延長が認められ、現在は80年までの議論が進められている」と書かれた資料を配布したため、「なし崩し的に何度も延長されないかと恐れているのに」と住民感情を逆なですることになりました。

関電の対応が大きく変化

 1月20日、高浜原発2号機で工事用大型クレーンが倒壊する事故が起きました。2週間以上経っても関西電力からは説明がなく、住民は関西電力に質問状を送り、説明会開催を求めました。事故から1ヵ月後、ようやく説明会は開催されました。これまで原発でトラブルが発生しても住民は何も言わないのが立地地区の現状です。関西電力社長は、1月末の記者会見で音海地区の動きについて「もう少し丁寧に説明していく必要がある」と語りました。 その後、関西電力は地域対応に当たる副所長を新たに配置し、担当課長を3人増員。4月には副所長2人が地区の花見会を訪問し、高浜町長も住民と懇談。高橋さんが取材した住民の1人は「意見書提出後、こんなに対応が変わるものかと驚いた。原発を一番恐れないといけない私たちが声を上げてこなかったことを反省している」と語ったということです。

 2018年、高浜原発新トンネル建設、2019年、音海地区の内浦港にヘリポート建設計画、また、集落避難道が4メートルに拡幅される工事が次々決定されています。「運転延長反対」の看板を設置することで関西電力だけでなく、県、町の対応も大きく変化したようです。このような動きに対して条件闘争だと反原発運動に取り組む人たちに言われたり、原発推進派から利用される危険性が指摘されていますが、さまざまな葛藤を含んだ音海地区の新たな動きです。「小さな集落でもいろいろな意見がありますが、酸いも甘いも飲み込まなければまとまらない」とは高橋さんが地区の人から聞いた言葉です。そして、「新聞記者は時代に対して物申さなければならない。たとえ小さな記事であっても地域の原子力政策に大きな影響を与えるはず。音海地区のように立地地区の少数の人たちが日本の原子力政策を方向付けているのが現状で、これまで立地地区の人たちにアクセスできなかったのが、この半世紀の原子力反対運動であり、私たち新聞記者の取材だったのではないでしょうか」と高橋さんは自戒を込めて話します。

「原子力基本法」を廃止に

2019年1月2日現在、国内では、玄海原発3・4号機、川内原発1・2号機、大飯原発3・4号機、高浜原発3・4号機、伊方原発3号機が稼働しています。「世論は脱原発が主流で原発を推進している政党は自民党だけ。立地地域でも亀裂が生じています。しかし、『原子力基本法』がある限り、原発はやめることができません。法によって政府は原子力をやめないし、誰よりも官僚は法に従わなければなりません。脱原発には、野党が圧勝してこの法を廃止しなければならないと考えます」と高橋さん。そのためにも今年の統一地方選挙や参議院選挙は重要です。「音海地区の動きは原子力政策に必ず影響を及ぼすはず。これからも真摯に取材を続けます」と高橋さんは結びました。

司会はコープ自然派奈良・福崎理事。祝日ということで子どもたちや小さな子連れママたちも参加。

Table Vol.388(2019年3月)