2017年から国産有機小麦の契約栽培が始まり、コープ自然派パン工房「自然派Styleオーガニックグラハム食パン」などで使用しています。国産有機小麦の栽培拡大が北海道でどのように展開できるかが今後の課題です。国産オーガニックを拡げることを目標とした「北海道産地ツアー」では、「北海道有機農業協同組合」組合長・小路健男さんに有機農業の現状と課題についてお話を聞きました。
持続可能な取り組み
1991年、勇払郡安平(あびら)町で新規就農した小路さんは、就農当初から無農薬・無化学肥料、有機栽培に取り組んできました。2.2haからスタートした田畑は水田0.6ha、そして、人参・ヤーコン・ゴボウ・南瓜・小粒大豆・小麦など多品目栽培の畑11.25haへと拡げ、平飼い鶏400羽は無投薬かつ北海道産飼料を中心に育てています。
自己完結型の循環型農業を意識し、有機JASで許可されている農薬も使用せず、微生物の活性化を促す生産方法にこだわっているとのこと。「100%を目ざすと無理が出てきますが、多品目の作物を栽培していれば、全滅することはありません。目標の8割の収穫で生活できれば良しと考えています」と話す小路さんの座右の銘は「足るを知る」です。
また、1996年から小路さんは有機農業新規就農者の育成を始め、すでに5組が就農、現在は1組の新規就農者が研修中。豊かな自然環境を未来の子どもたちに残すためにも、小路さんは人材育成をライフワークにしているということです。
消費者加入型の有機農協
2001年、「北海道有機農業協同組合」は全国で初めて有機農産物のみを扱う組織として、有機JAS法成立とほぼ同時期に設立されました。新規就農者の割合(6割)が多く、組合が広域にわたっているなどの特徴をもち、現在、組合員数562名、うち62名が農家(組合員)、500名が消費者(准組合員)です。また、消費者の視点を取り入れた生産・流通を運営するため、消費者加入型農業協同組合という形で組織化しています。
2011年、宅配事業「ゆうきの実」を開始し、生産者と消費者が1つの組織で暮らしを支え合う内部循環型宅配事業として運営。収穫祭や女性を中心に活動する「ゆうきの芽プロジェクト」によるマルシェ、料理教室、学校給食への有機農産物の普及啓発(農産物の提供、食育講座の開催)活動、加入促進活動、子ども食堂への支援などを実施。「消費者の食卓をわれわれ生産者が支え、消費者はわれわれの畑を支える関係をつくるために、環境活動や食育活動など市民活動を一緒に展開しています」と小路さん。女性の参画にも力を入れ、消費者も理事として運営に参加しているということです。
現在、北海道には約4万戸の農家があり、そのうち有機JAS認証を取得しているのは約300戸。有機農産物の需要が高まり、有機加工品と有機雑穀(小麦・大豆)のニーズが増加するなか、新規就農者だけでなく、慣行栽培から有機栽培への転換をすすめることが課題です。また、北海道は有機JAS認証加工場が少なく、加工品目を増やすためには加工業者と連携し、将来的には自前加工も視野に入れた取り組みも重要。生産者同士は生産方法や流通面で共生を目ざし、再生産可能な農産物価格を維持していくことが必要です。「有機農産物が特別なものではなく、誰もが当たり前に手にし、食することができる社会、また、有機野菜の生産とその生産物で暮らし、持続できる社会の実現が目標です」と小路さんは話します。有機小麦を買い支えよう
有機小麦を買い支えよう
国産有機小麦は、収穫量が慣行栽培の半分以下、さらに、赤カビのリスクが高いなど多くの問題点があります。なかでも、赤カビは基準値を超えると、流通できないうえに規格外小麦としてタダ同然の家畜のエサになり、直接支払交付金制度(1俵あたり6,000~9,000円)の対象外になるということです。
今後、有機小麦の畑を拡げるためには、消費者の「買い支え」が不可欠です。麦の栽培は連作障害を防ぐために、じゃがいも、大豆、かぼちゃなどの作物と組み合わせて輪作(同じ土地に性質の異なった数種類の作物を何年かに1回のサイクルでつくる方式)することが必要です。そして、これらの作物を含めて全量を買い取ることで生産者を支え、それが国産オーガニックの推進へとつながります。
Table Vol.387(2019年3月)