Table(タブル)はコープ自然派の情報メディアです。

生産者訪問・商品学習会

食卓に笑顔を北十勝ファーム~北海道の畜産生産者訪問②~

2023年8月28日、コープ自然派理事長・専務理事合同研修として北海道の畜産生産者を訪ねました。いま畜産農家はウクライナ侵攻や急激な円安による飼料価格の高騰に苦しんでいます。牛乳の消費が伸び悩むなかでの乳価改定など厳しい状況が続くよつ葉乳業を応援しようと、放牧酪農牛乳の指定生産者である石黒牧場と、よつ葉乳業の十勝主管工場を訪ねました。オンラインTableでは、2回に分けてその内容をお伝えします。(前回の記事はこちら)

 北海道の畜産生産者、次に紹介するのは、オーガニックビーフの生産を開始した「北海道短角牛一頭買い」の北十勝ファームです。私たち消費者が畜産の現場を見る機会はほとんどありません。一般には工業的な畜産も多く行われていますが、北十勝ファームは私たちが「牧場」ときいてイメージする通りの、のどかで幸せな牧場そのものでした。

北十勝ファームのみなさん。左から、安田桃子さん、中村梢乃さん、上田ひろみさん、上田金穂代表、上田圭豊さん、上田七加さん

いつまでも牛飼いであるために

 「むかし、消費者の方が牧場見学に来られたときに、いろんな話をしたあとで『そういったって牛を殺してお金にしてるんでしょ』と言われたことがあって。確かにそうですけど、でも僕ははじめて牛を出荷したあと切なくて切なくて、家に帰るまでずっと涙が止まらなくて、そのときに、同じ牛飼いでも牛が僕に飼われて幸せだったと思ってもらえるような牛飼いになろうと思ったんです。」

 北十勝ファームの牛飼いは、この上田代表の精神が徹底されています。スタッフに牛の様子を聞くと必ず「牛によってちがいます」「牛たちが頑張ってくれています」という言葉が返ってきます。牛のことを本当によく見ていないと出てこない言葉です。牛たちも人に対してストレスを持っていないので、怖がらず人懐こく寄ってきます。また、牛はストレスを感じないと基本的に鳴かないそうで、たくさんの牛がいるにも関わらずとても静かなのも印象的でした。(一方、上田代表が「べえええ〜」と牛を呼ぶと、牛舎にいる牛たちが一斉に「べえええ〜」と返事をする場面も!)

 「アニマルウェルフェアという言葉に惑わされずに、本質を見ることが大事だと思っています。スタッフのつなぎにAWFC(アニマルウェルフェアフードコミュニティ)のロゴマークをつけていますが、それは商品をブランド化するためではなくて、スタッフたちが『このマークを身に着けている以上、牛たちにどう接するべきなのか』と考えるために使っています。そう考えながら牛に接することが、僕はいちばん大事なアニマルウェルフェアだと思っているので。そして、ストレスのない家畜の肉を食べることが、人間のストレスがなくなることにもつながると思ってるので、消費者にも本質を見抜く力が必要ではないでしょうか。」

オーガニックビーフへの挑戦

 北十勝ファームの敷地面積は300ha以上、広さのイメージでいうと東京ディズニーリゾートとユニバーサルスタジオを合わせた面積の約2倍くらい。ここで、放牧を中心に600〜700頭の短角牛を飼育しています。スタッフは上田さん含め6名。国内で飼育されている短角牛7000頭のうち約8%がここにいます。

 コープ自然派では、「北海道短角牛一頭買い」として取り扱っています。一頭買いとは、毎月違う牛肉の部位が届く登録制の利用方法です。一頭の牛からとれる肉は、非常に少ない量しかとれない部位もあれば、比較的量の多い「モモ」などの部位もあります。それらをバランスよくセットすることで一頭まるごと無駄なく利用することができ、生産者は安心して生産することができます。

 そして、「北海道短角牛一頭買い」の第9期(2023年10月〜3月)分から、オーガニックビーフがセットに加わります。国内のオーガニック畜産はごくわずか、なかでも牛肉は国内生産量の0.1%に届きません。牛を何十年も飼ってきた上田代表も、有機での飼育は初めて。有機JASに定められたエサでバランスよく育てながらどうおいしい肉質にしていくか、道半ばと話します。牛肉の生産は、母牛を育て、種付けをし、子牛が生まれて育てて出荷できるまで早くて4年半かかります。コープ自然派がこの先オーガニックビーフの取り扱いを増やすには、5年計画でシミュレーションしながら一緒に取り組んでいく必要があるとのことでした。

 「慣行の牛を一頭買いでみなさんに供給してますけども、その牛たちも有機圃場で放牧されたり、有機圃場の牧草を食べたり、もちろんNON-GMOでポストハーベストフリーの飼料を食べています。放牧の面積も、有機JASで決められた面積の何倍もの広さの場所で放牧しています。だから有機と慣行ではずいぶん有機のほうがレベルが高いと思うかもしれませんが、エサのちょっとのところが有機に変わっただけ。うちは他のところと比べて突出してこだわったことをずっとやってきているので、慣行といっても有機に匹敵するレベルだと僕自身は思っています。」

 例えば、デントコーンや牧草などエサの約6割を自給しています。デントコーンの圃場28haの内11haが有機栽培ですが、慣行栽培も除草剤を1回だけ使用しそれ以外は有機と同じ栽培方法です。それ以外のエサも道内のものを中心にビール酵母、ゼオライト、ミネラル土、カルシウム(カキ殻粉末)、横山製粉のふすま、しょう油カスなど12〜13種類の飼料を、手間をかけて自家配合し、牛の健康を守っています。

健康にも味にもこだわる

 「いまの家畜って僕から言わせると家畜じゃないんですよ。いまの家畜は30ヵ月で出荷するというマニュアルに従ってやっていくと、32〜33ヵ月まで飼うと死んじゃうんです。霜降りで出荷するためにタイムスケジュールを組んで飼われているので、それを過ぎるとビタミン欠乏だったり、人間でいう成人病だったり糖尿病だったりで死んでしまう。それは家畜ではなく産業動物。やっぱり健康に飼うことが大事だと思います。」

 ただ、健康に飼うと霜降りにはなりません。上田代表は畜産大学と一緒に赤身肉としてのおいしさを研究し、脂分12.5%〜25%くらいを目指して育てています。これは一般的な赤身肉より脂身が多めなので、赤身肉は固い、パサつくという印象のある方はぜひ食べてみてください。特にオーガニックビーフは、レストランのシェフたちから「もともと上田さんのところの肉は後味がすっきりしててクリアだけど、よりクリアな味わいだ」と驚かれたそうです。そして、美味しさの秘密は、牧場の臭いにもあります。

 「牧場が臭くないことが、牛肉に臭みがない理由です。牧場の中に炭を埋めてマイナスイオンを高めたり、BMW技術という自然循環のしくみを取り入れることで、微生物の良いバランスを保っています。また、牛の糞は木の皮を混ぜて発酵させて堆肥として牛舎や圃場に戻すことで、有用菌が循環するしくみを構築しています。」

 「僕はスタッフに『牛をお金で見るな』と日々言っています。たまたま格付けが悪くて金額としてはずいぶん安くなっちゃったとしても、牛には何の罪もないので。それと同時に、牛は別に屠畜されるために生まれてきたわけではない。それを人間の都合で屠畜しているので、1か月に1回、牧場内にある慰霊碑にみんなで手を合わせて成仏を祈り、感謝を伝えています。そして、おいしいって言って食べてもらうことがいちばん牛にとって供養になると思っています。」

 上田代表は、北海道で初めて交雑種(F1)の取り組みを行った人でもあります。有機JASやアニマルウエルフェアにも先駆的に取り組む研究熱心な挑戦者。「チャレンジしてなかったら死んじゃうんじゃないですか。自転車と同じで、ペダルを踏み続けてないと倒れるみたいな。」と笑います。今年の夏はとにかく暑くて牛たちも人間も大変でしたが、環境の変化も工夫で乗り越えながら、今日も牛たちと向き合っています。

組合員から預かった畜産カンパを直接渡すコープ自然派兵庫理事長・正橋さん。

2023年8月8日、コープ自然派兵庫では北十勝ファームの学習会が開催されました。上田代表のお話に加え、オーガニックビーフの試食をした参加者からは、「塩のみで美味しい」「口の中で脂がすっと溶けるよう」「かむほどに甘みが感じられた」などの感想が寄せられました。

コープ自然派兵庫で開催された北十勝ファームの学習会とオーガニックビーフの試食会。

Table Vol.495(2023年11月)より
一部修正・加筆

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3

アーカイブ

関連記事

PAGE TOP