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生産者訪問・商品学習会

いのちがつながる食卓 ― 0.1%のオーガニックビーフ ―

北海道・十勝の広大な牧場では、力強い生命力を持つ短角牛がゆったりと過ごしています。2025年8月29日、コープ自然派兵庫(商品委員会)の学習会では、北十勝ファーム代表・上田金穂さんのまっすぐな思いに触れました。

やさしい語り口で解説する天笠さん

0.1%のオーガニックの挑戦

 コープ自然派で取り扱う「北海道短角牛一頭買い」に、2023年からオーガニックビーフが加わりました。国内のオーガニック畜産はごくわずかで、牛肉にいたっては0.1 %にも届きません。牛を何十年も育ててきた上田さんにとっても、有機畜産は新たな挑戦でした。「牛肉は出荷までに少なくとも4年半かかります。母牛を育て、種をつけ、子牛が育ってようやく食卓に届く。その間、どう健康においしく育てるかが問われます」と上田さん。だからこそ、オーガニックビーフを広げるには、5年先を見すえた計画的な歩みが欠かせません。

一般的な飼育もオーガニック級

 北十勝ファームでは、春から晩秋は母牛と仔牛が放牧され、冬は牛舎で暖をとり、自然に近い環境で牛を飼って繁殖も行われています。
 有機認証を受けていない牛たちも飼い方は格別です。放牧面積は有機基準の何倍も広く、飼料は遺伝子組換分別流通管理飼料・ポストハーベストフリー(収穫後農薬不使用)です。デントコーンや牧草など飼料の約6割を自給し、育てる畑も除草剤は最小限。さらに、ふすまやしょう油かす、ビール酵母、カキ殻粉末など十数種類を手間ひまかけて自家配合。「慣行といっても有機に匹敵するレベル」と上田さんは胸を張ります。

愛情こそ安心安全の原点

 短角牛は双子で生まれることも少なくありません。一般的には代用乳で補いますが、北十勝ファームでは仔牛はなるべく母牛から直接母乳を飲み、親子の自然な絆の中で育ちます。また、飲み水は天然の地下水で、牛も従業員も同じ水を飲んでいます。
 1998年から農薬や抗生剤に頼らない飼育を続ける上田さんは、「安心安全をわざわざ謳わなければならない世の中はおかしい。本来、命をつくる食べものは安心が当たり前であるはずです」と話します。牛への愛情が、そのまま「安心安全」へとつながっているのです。

風味を閉じ込めて

 短角牛は赤身の旨みが特徴で、滋味深い味わいです。ミニステーキを焼くときは、フライパンを高温に熱して塩を振った肉に焼き色を付け、肉汁を閉じ込めます。その後、低温でじっくりと火を通すだけ。シンプルな調理で赤身の旨みと香りが際立ちます。
 1961年に格付け制度が始まるまでは、牛肉は脂肪の入り方ではなく、〝食べておいしいかどうか〟で評価されていたそうです。脂の多さ=おいしさという考え方は今ようやく変わりつつあり、世界でも霜降りより赤身が注目されています。牛肉のおいしさには育った環境も含むさまざまな要素が重なり合います。滋味深い短角牛の赤身は、今の時代が求める味なのかもしれません。

サイコロステーキと小間切れをシンプルに塩でいただきます

畜産の未来を見据えて

 オーガニック認証の取得は、膨大な書類作成や厳密な飼料管理が必要です。ハードルは高いものの、アニマルウェルフェア(動物福祉)や環境への配慮を重ねる姿勢は、国内の畜産の未来を照らしています。そして「食べる人の意識が変わらない限り、有機も広がりません」と上田さん。牛肉の一頭買いは、生産者と消費者が信頼で結ばれる仕組しょう」と語りました。

上田さんを囲んで短角牛ポーズ

Table Vol.519(2025年11月)

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