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食と農と環境

食で人と地域をゆるやかにつなぐ

2025年6月26日コープ自然派京都では、「縁食」をテーマにトークセッションを開催。そのなかから、京都大学人文科学研究所教授・藤原辰史さんの内容の一部を紹介します。

京都大学人文科学研究所教授・藤原辰史さん

「縁食」とは

 「どんな人も食べなければお腹がすきます。ならば『食べる』ことから世界をつなぎなおせないか」と藤原さんは問いかけます。
 いま家族団らんの食事は減り、食べ方が多様になっています。ひとりぼっちで食べる「孤食」、そして、家族や学校など強い関係性のある人と一緒に食べる「共食」。そのどちらでもない、ふらっと立ち寄って一緒にごはんを食べるような、ゆるやかにつながる食のあり方を藤原さんは「縁食」と名付けました。いま「縁食」が求められているという背景には、非正規雇用や格差など社会の歪みが放置されてきた社会の問題があり、この歪みが家族に、特に母親に押し付けられていると指摘します。
 子ども食堂は「縁食」の分かりやすい形で、中学校の数を超えるほど急増しています。この「縁食」の場所は、メンバーシップの中では固定しがちな役割を分解し、女性や子どもたちを家族間の負担や暴力から守る役割も果たします。そこで大切なのは、「弱目的性」という余白。ごはんを食べるために集まるけれど、たとえ食事をしなくても、ただそこにいるだけでもいい。そんな余白が「縁食」にとって大切なのです。

砂時計のネックを独占する

 食から歴史を眺めると、そこには巨大な闇や暴力が見えてきます。1970年代、アメリカの外交官ヘンリー・キッシンジャーは、アメリカが世界の覇権を握るためには、食、石油や、軍事力のほかに、の3つ食が重要だと考えました。そして、「従わなければ食べものを渡さない」という外交カードを武器に、世界中から穀物を集めて売る大商社「穀物メジャー」と深くつながりながら、食で世界を支配していきました。現在は数社の穀物メジャーが世界の穀物流通の7~8割を占めるといわれています。
 アメリカのフードジャーナリストであるラジ・パテルは、著書『肥満と飢餓』で、世界の食料事情を砂時計に例えています。砂時計の上の部分を生産者、下の部分を消費者とすると、世界中の生産者から消費者へ食べものを届けるには、必ず細いネック「くびれ」の部分を通らなくてはなりません。その「くびれ」ネックを支配しているのが穀物メジャーで、世界中の穀物を巨大な倉庫に集めて保管し、価格が高いタイミングで売って莫大な利益を得ています。食べものは投機の対象であってはなりません。さらに、食べものの生産に欠かせない農薬や化学肥料、種子を支配している企業とも結びついて世界中の農民や低所得者からお金を吸い上げています。

人と地域を耕す「縁食」と生協

 生活協同組合は、この食権力を批判し乗り越えるために生まれました。砂時計に穴を空け、「くびれ」を通さずに、上(生産者)と下(消費者)の縁を直接結ぶことは、生協の本来の意義です。生協を中心とする産直提携運動は「TEIKEI」という言葉で世界中に広がっていますが、これはまさに「縁食」のひとつの形であるといえます。
 子ども食堂や生協以外にも、日本中で小さな「縁食」の試みが実践されています。「縁食」の縁は「縁側」の縁でもあります。「縁側」の半分外で半分内というあり方は、「縁食」における人と人、人と場とのつながり方とも共通しているのかもしれません。藤原さんは「食べることを起点に、人間関係や地域を耕していければ」と話しました。

藤原さん、「城陽農育クラブ」中川隼人さん、「上高野くらしごと」太田里奈さんによる「縁食」のトークセッション

Table Vol.519(2025年11月)

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