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巻頭インタビュー

【ICEBA7特集】基調講演②持続可能な水田を実現するために〜生物多様性と水循環の再生〜(フリージャーナリスト・NPO 法人日本有機農業研究会理事 吉田太郎さん)

ICEBA(アイセバ/生物の多様性を育む農業国際会議)は、生物多様性を基盤とした地域循環型農業技術の確立と、国内外への普及を目指す国際会議です。2025年7月12日・13日には、7回目となるICEBA7が徳島県小松島市で開催されました。
吉田太郎さんによるICEBA 7での基調講演では、温暖化を防ぐためのアグロエコロジーの重要性や有機給食を推進する各国の事例が語られました。

吉田太郎 | YOSHIDA Taro
埼玉県、東京都および長野県の農業関係行政職員として勤務。長野県では農業大学校教授のほか有機農業推進担当職員として有機農業の啓発普及に従事。フリージャーナリスト。NPO法人日本有機農業研究会理事。『タネと内臓』『土が変わるとお腹も変わる』(いずれも築地書館)、『シン・オーガニック』(農文協)など著書多数。

なぜアグロエコロジーなのか~
土壌炭素スポンジが温暖化解決へ

吉田 農業での地球温暖化対策が求められるなか、スイスで行われた農業ジャーナリストの国際会議では、温暖化防止や生物多様性の維持、食料安全保障、リジェネラティブ(大地再生型)農業などが主なテーマでした。健全な農業によって土壌は炭素を溜め込むスポンジになり温暖化回避に向かうという内容です。一方で、日本ではスマート農業やソーラーパネルの下で農業を行うなど効率化を重視した農業改革が進められています。

温暖化と水と森

吉田 土壌に団粒構造があれば雨が降っても大地にしみ込み、蒸発する際の気化熱で気温が下がります。世界各地での熱帯夜の急増は、気化熱が機能していないことも関係しています。例えば、中東の砂漠地帯の気温は約50℃ですが、中東よりも緯度的にはずっと南のアマゾンでは夕方に大雨が降り、蒸発して地表の熱を奪うため気温は約30℃。アマゾンでは森の中で水が循環することで温暖化を防いでいます。また、空気中の霧が集まって雨粒になるには核となるものが必要ですが、森では微生物がその役割を果たし雨を降らせます。森は地球の気象を調整する灌漑システムなのです。

水と健康な土が地球を冷やす

吉田 11月に開催されるCOP30では生物多様性と気候変動が同時に議論されます。これまでは温暖化を防ぐにはカーボンクレジットの取引がカギだとされていました。しかし、生物多様性については小規模家族農家がいかに多様性を守るか。そして、微生物が介在する水の循環と、団粒構造の土壌への炭素貯留を増やすこと。地球を冷やして地球温暖化を防ぐには、地球を循環させる「水」を取り戻すことが重要になります。

いま何が必要か?~
有機農業は技術的に可能

吉田 NPO法人「大地といのちの会」理事長の吉田俊道さんが提唱する「菌ちゃん農法」では有機物と菌類を活用し、例えば、泥のない荒れた土地でも丸太を地面に入れることで窒素肥料を与えなくても植物が育ちます。
 化学窒素肥料は、高温・高圧の人工環境を無理やり作り出して天然ガスを用いて不活性な窒素をアンモニアに合成していますが、根粒菌に限らず多くの微生物が炭素をエネルギー源として常温常圧で窒素を固定していることがわかっています。化学窒素肥料を使わなくても食料を生産できる無肥料技術や生態系の相互作用を活かした無農薬栽培の技術はすでに各地で実践されています。

キューバの食料主権法

吉田 キューバでは憲法に食料安全保障を定めています。それをもとに「食料主権法」を制定し、縦割り行政を打破して国民の意見を聞きながら計画を立てました。そして、輸入への依存を減らし、フードロスを削減し、地方に権限を委ね、学校教育での食育を強化することで、有機農業による食料自給を進めていったのです。
 かつてキューバでは農薬と化学肥料を大量に使用した換金作物を作って外貨をかせぎ、食料自給率はわずか40%でした。アメリカによる経済封鎖やソ連崩壊で石油の輸入が滞ったことから、主食である米をトラクターを使わない手作業で作り始め、より少ない水・種子・肥料で空中窒素を固定して米を育てるSRI農法に転換することで、収量を落とすことなく、トキも再び飛来するようになりました。

台湾はアジアの有機農業を牽引

吉田 2024年度のIFOAM(国際有機農業運動連盟)大会では、台湾の農業部長(日本の農相に相当)は、「アジアは欧米よりも高温多雨で病害虫や雑草が多く有機農業は難しいだけに、台湾がモデルとなってアジアを牽引していく」と挨拶しました。現在台湾の有機農業の割合は3.4%です。
 台湾では2018年に有機農業促進法を制定し、土着天敵を利用した農法や、微生物を活用した微生物製剤を開発。また、有機農業への転換に対して施設、資材、有機認証経費を補助し、農業改革計画の柱として奨励金プログラムを実施して、直接払いによる有機農業への転換を進めています。
 そのきっかけは農村の変化でした。かつては農村の暮らしは環境と調和していましたが、近代農業へと変化し、過疎化や高齢化により遊休農地が増え、集落が崩壊し、伝統文化や生物多様性も失われました。そして、食生活の急激な変化によって生活習慣病が深刻化。そこで、里山イニシアティブを国家戦略として打ち上げました。

有機給食で需要をつくる

吉田 台湾では有機給食を推進するための様々な法整備を行い、給食に有機農産物を優先的に使うことで需要を広げ、ローカルな農業を守っています。そして、給食で提供される食材の詳細な情報を保護者がスマホで確認できるシステムや、有機認証を確認できるQRコードなどで消費者への理解を促しています。
 「公共調達による有機給食は大きなカギとなります。おいしくて農業生態系を保全する食べ方で、食と農から世界を変えていきましょう」と吉田さんは呼びかけました。

Table Vol.518(2025年10月)

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