現代の食生活に欠かせない小麦ですが、グルテンフリーも話題です。2025年4月30日コープ自然派おおさか(ビジョンたべる)では、吉原食糧(香川県)代表取締役の吉原良一さんを招き国産小麦の歴史や課題について聞きました。

麦の可能性を引き出す
1902年創業の吉原食糧は、麦の健康機能性とおいしさを求めて小麦や大麦の商品を製造しています。コープ自然派向けにはパン用小麦粉や、自然派Styleのお好み焼粉やてんぷら粉などのミックス粉を製造。中でもホットケーキミックスは自然派Styleの前身含め約25年前からのロングセラーで、食事にも使えるよう甘さを控えています。もち麦冷凍うどんなど健康を意識した商品も人気です。

日本の小麦粉の歴史
戦後、食糧難を背景に小麦の価格や輸入量は政府が管理していました。1961年の長雨により国産小麦の収穫量が激減。当時の国産小麦は品種改良が進まなかったため、うどんにしても色が黒くブツブツと切れてしまうものでした。オーストラリア産の小麦は白くてモチモチとした食感でうどんに適していたため輸入量が急増し、現在も国内で消費される小麦の約8割がオーストラリア産です。
国産小麦の品種改良
2000年、民間流通制度が導入され、小麦の生産者と製粉業者などとの直接取引により品質の良いものが売れる市場となり、国産小麦の品種改良が進みました。
香川県で開発された「さぬきの夢」はモチモチとした食感のうどん用小麦です。開発当初は切れやすいという課題があり苦労したそうですが、2003年、小麦のグルテンを改良して弱点を克服。また、「きたほなみ」など高い収量性が特徴の品種も開発されたことで、国内産小麦の作付面積はほぼ横ばいですが、収穫量は増えています。
小麦栽培の難しさ
国産小麦の自給率が17%と少ないのは、管理の難しさにあります。秋蒔き小麦の収穫は梅雨の時期ですが、小麦は雨に弱く、雨にあたると芽を出してしまい商品になりません。北海道のように小麦専門の生産者は雨が降る前に刈り取ることができますが、他の地域では兼業農家も多いため品質の管理が課題です。国内産の小麦は更なる品種改良や、乾燥調整施設の整備、製粉技術向上などがまだまだ必要とのことです。
製粉技術が左右する小麦の味と栄養価
小麦は大きくは「外皮(ふすま)」「胚乳」小麦の芽となる「胚芽」の3つに分けられますが、実はさらに細かい層に分かれていて、部位によって味も含まれる栄養素も様々です。ポリフェノールの多い小麦胚芽は甘く、小麦の大部分を占める胚乳は炭水化物が豊富。食物繊維は外皮に多く含まれ、胚乳の外側のアリューロン層(糊粉層)にはミネラルやビタミンがたっぷりと含まれています。吉原食糧では用途によって55段階に挽き分け、最適な味と品質の小麦粉をつくっています。
グルテンフリーの必要性
グルテンは小麦に水を加えて練ることで生成されるタンパク質で、麺類のコシの元になり、パンのふわふわした食感やふくらみを助ける成分です。グルテンに含まれる物質に対する自己免疫疾患(日本では0.0 5 %ほど)やグルテン不耐症の場合はグルテンフリーの食生活が必要ですが、それ以外の人はバランスよく栄養を摂ってほしいとのこと。グルコース(ブドウ糖)の摂りすぎは良くないですが、脳の働きには欠かせません。
本来の食の意味とは
「食べものは本来、生きるための栄養を取り入れるもので、欲するままに食べることは健康を損ないます」と吉原さん。豊かな食環境にある現代では、自らが栄養バランスを意識する〝食のリテラシー〟が大切です。「自らが食べるものを選んで、バラエティ豊かな小麦製品をぜひ楽しんでください」と吉原さんは話しました。
Table Vol.516(2025年8月)