料理雑誌やテレビ番組で活躍中の「エダモン」こと枝元なほみさん。近著に「食べるスープレシピ」(世界文化社)があります。

6月22日(金)、コープ自然派奈良では、通常総代会後に料理研究家・枝元なほみさん講演会を開催、何を食べ、どのように暮らすかを選択することで社会を変えようとのメッセージを枝元さんからいただきました。

今、曲がり角に立つ日本

 「食べもののことを考えるときはとても幸せ、人は幸せを感じるときは脳からセロトニンという物質が出てくるそうです」と枝元さん。今、日本は曲がり角に立っていて、そんな日本だからこそあえて「食べる」「暮らす」という基本的なことを大切にしたいと枝元さんは話します。6月13日、TPP11が国会で承認されました。また、4月1日から「種子法(主要農作物種子法)」廃止。「種子法」とは戦後、食糧が不足していたとき、稲、麦、大豆の良質な種子の安定的な生産を国が責任をもって行うことを定めた法律です。しかし、この法律が廃止されると外国の種子企業の参入、種子価格の不安定化、遺伝子組み換え(GM)種子の拡大などが懸念され、農家は自家採種や種子の交換ができなくなります。

 1996年、米国でGM作物の栽培がスタート。食糧危機を回避するために砂漠でも作物が育つようにとGM作物が開発されました。しかし、現状はモンサントやデュポンなど7社が世界の種子の70%を独占するようになりました。そして、特定の農薬を散布しても枯れない除草剤耐性作物は農薬の使用量を増やすことになり、殺虫成分をつくる害虫耐性作物の人体に与える影響も明らかになっています。「どう考えてもGM作物は大企業のために開発されたものです。私たちがしっかりしていなければとんでもない食べものを食べなければならなくなります」と枝元さんは警告します。

何でも食べて生きて!

 枝元さんは、ある高校で食育の授業を担当する機会を得ました。生徒には事前に自分が食べたものを記録してもらい、その内容は枝元さんが予想しているよりバランスの悪い内容でした。朝はメロンパン、昼はエビフライとスパゲティ、夜はフライドチキンという具合です。子どもの食生活は否応なく家庭の経済的事情に左右され、親の考え方が反映されます。そこで、枝元さんは授業内容を「今日からすぐ活用できるメニュー」に変更しました。

 授業の帰りに最寄り駅のホームで女生徒と出会いました。これからアルバイトに行くとのことで母親と2人暮らし、母親は交通事故で仕事ができないのでアルバイトを1日も休めないと。「もう胸がいっぱいになり、彼女には何でもいいから食べて生きてと思いました。それからは〇〇を食べてはだめというような否定的な言い方ではなく、こっちの方がもっといいよというような言い方になりました」。

生きていくことの専門家

 枝元さんは福島原発事故後、国会前での抗議行動や脱原発集会・デモに参加するほか、福島に何度も足を運んでいます。「食べることは生きていく力になります。でも、大企業は利益を上げるために体に害があることがわかっているようなものでもどんどんつくります。原発もそう。大変な事故を起こし、核のゴミは何万年も何十万年も埋めておかなければならないのだから止めるべきです」。

 枝元さんは福島県郡山市の仮設住宅で料理の話をすることになりました。すると支援を続けているNPO団体の人たちに「あまり科学的な話をしないでください」と言われました。仮設住宅でも当初は放射能の問題などについて勉強したそうですが、専門家の意見が異なるので何が正しいのかわからなくなるとのこと。例えば、フレコンバッグから7メートル以内に近づいてはいけないという専門家もいれば、30メートル以内に近づいてはいけないという専門家もいます。「専門家はどの視点に立つかで意見が異なります。専門家の言うことがいつも正しいと思ってはいけません。なぜ食べものについて考えなければならないか、なぜ暮らしを考えなければならないか、それは私たちが生きていくために必要だからです。私たちは生きていくことの専門家、そう考えるともっと自信をもっていいと思います。だから自分で考え、発信していこうと思うようになりました」と枝元さんは話します。

食を選んで社会を変える

 贅沢しなくてもいいから子どもたちがちゃんと生きていこうと思える未来を残したい。お金がなければ何もできないと思うような子どもたちばかりの未来を想像したくないと枝元さん。大企業だけが利益を得て、このままだと格差はどんどん広がるばかり。また、大量生産・大量消費・大量廃棄の一方で、日本の食糧自給率は38%。アメリカ119%、カナダ120%、オーストラリア230%、フランス130%、ドイツ90%、イタリア70%などと比べてダントツの低さです。

 枝元さんは映画「フードインク」を観て、食べものが工業化されていくことに暗澹としましたが、最後のシーンで「私たちは日に三度、社会を変えるチャンスがある」という言葉に希望を抱いたということです。「どんなものを食べ、どんな暮らしをするかの選択は社会を変える力になります。私たちには力があることをもう一度思い出したい。国会前で抗議し続けることも必要ですが、何をどのように選んで食べていくかを周りの人たちと共有することが社会を変える力になることを思い起こしてください」と枝元さんは話しました。

枝元さんの講演会はやわらかな雰囲気に包まれます。

司会は奥理事が務めました。

Table Vol.375(2018年9月)