2024年10月6~7日、コープ自然派連合産直委員会では、これから取り扱いが始まろうとしている関東の野菜生産者と交流するため茨城県を訪れました。今回訪問したのは、ふしちゃんファーム、オーガニックハイツ、カモスフィールド、JAやさとの4カ所。それぞれの生産者の取り組みを聞きました。
自分の娘に食べさせたい野菜をつくる(ふしちゃんファーム)
ふしちゃんファームを運営する株式会社ふしちゃん。代表の伏田直弘さんは、大学院で農業経営を学んだあと、大手外食チェーンに就職し、金融機関に転職したのち就農したという変わりダネです。2015年にハウス8棟から始めた農場は、現在ハウス60棟と露地1・5ヘクタールにまで拡大。すべて有機栽培で小松菜、ほうれん草、水菜、ロメインレタスの周年栽培に加え、いちごや米などを栽培しています。学校給食にも納入し、つくば市の学校給食で使われている小松菜と水菜はふしちゃんファームの有機野菜だそう。「いちばん大切な食べものを育てる農家が、しっかり収入を得られる農業をリードしたい」と、おいしさや栄養価など付加価値の高い野菜で年商10億円規模を目指しています。
「出荷するものと自分の子どもに食べさせるもので育て方を変えるなんておかしいと思いませんか」と話す伏田さん。元気な野菜を育てるためには、元気な苗を育てることが大切。温度管理がしっかりされた育苗ハウスでまず苗を育てます。生態系調和型農業理論(BLOF理論)に沿った豊かな土ですくすく育った野菜は、収穫後、加湿した冷蔵庫でしっかり冷やされて鮮度を保ったまま出荷されます。
「野菜も人も多様性を尊重する農園を目指しています」という伏田さん。どんな人でもできる有機農業でないと広がっていかないと、ハウス作業や出荷作業を省力化する機械を導入したり、全員が一連の仕事を把握できる体制をつくり、休暇の取得など働きやすい職場を目指しています。
また、ふしちゃんファームでは輸出にも挑戦していますが、「国家レベルで有機農産物を開発している韓国や中国に比べて、日本の技術は大きく後れをとっています。日本は湿度が高いので虫や病気が発生しやすく有機栽培は難しい環境。そんな日本の有機農産物が世界でどうやって戦っていくかを考えるのは楽しいですね」伏田さんの心は燃えています。
露地栽培で自然のリズムに寄り添う農業(オーガニックハイツ)
中学生の頃から「農業をやりたい」と思っていた高橋浩平さん。夏休みなどに梨農家だった祖父母を手伝ううちに、「自分でおいしいものをつくりたい」と思うようになったそう。高校、大学で農業を学び、農業法人に就職して経験を積んだのち、2018年にオーガニックハイツを立ち上げました。現在、40カ所に分かれた合計6ヘクタールの畑で、7人の従業員と一緒にほうれん草、スティックセニョール、にんじん、さつまいもなどを有機栽培で育てており、さながら野菜たちの住むハイツ(集合住宅)の大家さんです。
オーガニックハイツの野菜は、すべて露地栽培。暑さ寒さにさらされて育つ旬の野菜が、いちばん濃厚で甘みがあっておいしいという思いから、露地にこだわっています。しかし気象の影響を受けやすいのが露地栽培の難しさ。昨年は水不足、今年は猛暑と異常気象に手を焼いています。また、ハウスと違い虫に対しても無防備な環境ですが、アブラナ科とキク科を混在させて植えるなどの工夫で虫が増えすぎないようにしています。さらに、獣害も悩みの種。「このあたりはシカやイノシシの被害はありませんが、鳥の被害がひどく、ほうれん草畑3か所が全滅したこともあります」と。それでもめげることなく、近隣の乗馬クラブからもらう馬糞をメインに堆肥をつくり、おいしい野菜づくりに邁進しています。
微生物のお世話をして、土を「醸す」(カモスフィールド)
カモスフィールドは15年前、耕作放棄地を伐根して整地するところからスタートしました。笠間市に1・6ヘクタール、常陸大宮市に1・7ヘクタールのハウスをもち、小松菜、ほうれん草、春菊を中心に葉物野菜を有機で周年栽培しています。「カモス」は、発酵する、繁殖するという意味の「醸す」に由来します。「野菜は微生物が育ててくれる、人間は微生物の〝お世話係〞です」と話す代表の大橋正義さん。自然をコントロールするのではなく、自然の法則にしたがって、いかに微生物が元気でいられるかに腐心し、畑の微生物量は慣行栽培の畑の6万倍という桁違いの結果に。「化学肥料や農薬を使うと微生物が減ってしまうし、使わないほうがおいしい野菜ができると思うので、うちでは使いません」と大橋さんは話します。
「雷が落ちる田んぼはよく育つというでしょう。稲妻に稲ということばを使っていることを見ても、昔の人はよく知っていたんだなと思います。昔から経験則として行われてきたやり方の本質、つまり自然の法則そのものを理解して実践するのが人間の知恵。生命を100%生かすのが百姓。土も人間の体内も微生物や菌のバランスが大切なんです」「苦労して、とか、こだわって、というのは僕の好みではありません。日常の食を支えるためにも、有機栽培を広げるためにも、なるべく手間をかけずに簡単にできるということが大事だと思っています」。ときに科学的に、ときに哲学的に話す大橋さんのことばに参加者は聞き入っていました。
担い手を育て、全員が有機JAS認証(JAやさと有機栽培部会)
JAでありながら有機栽培部会を立ち上げ、研修施設も運営するJAやさと。1997年に有機栽培部会ができたきっかけは、20年以上産直取り組みが続いていた東都生協から「有機野菜を作れないか」と打診されたことでした。2年後には「新規就農研修制度」をスタート。その第1期生には東都生協の組合員と職員が自ら応募し、有機農家に転身しました。2001年に部員全員が有機JAS認証を取得。現在メンバーは約30軒で、約8割が新規就農者、平均年齢40代前半と若いのが特徴です。2023年には有機野菜の生産や担い手育成の取り組みが評価され、農林水産祭の園芸部門において内閣総理大臣賞を受賞しました。主な作物は、レタス、小松菜、ほうれん草、にんじん、ねぎ、きゅうりなど、年間20~40種類を作付け。2021年からは地元の学校給食にも有機野菜を提供しています。
JAやさととよつ葉生協のきずな
生協ネットワーク21に加盟するよつ葉生協(栃木県)は、JAやさと有機栽培部会と深い産直連携を続けてきました。年間の取扱品目は28品目、組合員からの信頼は高く毎年注文数が増加しており、組合員活動でも年3回の農業体験を続けています。よつ葉生協顧問の冨居登美子さんは「JAやさとのように、農家のことを考え、消費者のことを考え、未来の子どもたちのことを考えて行動している有機農家の集まりはほかにないと感じています。しっかり目を開いてどういう農家と産直を結ぶかを見極め、本当の意味での有機農業を広げていくことが大切だと思っています」と話しました。
Table Vol.508(2024年12月)