突然ですが「Watched kettle never boils」って英語のことわざがあります。私は授業カリキュラムの1/3が英語関連という非常に偏った高校生活を送ったので(副作用:他の科目が…以下略)1年生の時に英語のことわざをたくさん教わりました。なのにどうしたことでしょう?今や覚えているのは片手で数えられるくらい。その貴重な脳内遺産のひとつを直訳すると「見つめるヤカンは沸騰しない」みんなきっと経験あるよね。お茶入れようと電気ポットのスイッチ入れてじっと待つ時のイライラ感。「待つ身は長い」と一般的に訳されますが、訳す必要がないくらい暮らしの中の心の機微に寄り添った名句だなぁと今でも感心するのです。
てなわけで学んで半世紀経っても忘れていない理由は、例えばごはんの炊き上がりまであと5分と表示された炊飯器に「くそっまだ5分もかかるのか」と苛立ったら、呪文のようにこの句をつぶやき、意識を別の場所へ移すことを日常的に繰り返しているから。待つ5分より、使う5分にすれば案外すぐに時はたつ。おかずの盛り付けにちょっぴり凝ってみたり、あと10ページで読み終わる本を取り出したり、お財布の中のレシートを整理したり、保存してた占いの動画を観たり、5分って結構使い出があって、気づいたらごはん炊けてます。
「待つ→使う」の意識変換を今回書こうと思ったきっかけは、4月に習い始めた半年間のオンラインパン教室の卒業式。「混ぜる→20分待機→少しだけ生地を折りたたむ→20分待機→少し折りたたむ→冷蔵庫で一晩低温1次発酵→翌朝成型→2次発酵して焼き上げ」が基本のこの先生のスタイルは、ガシガシ捏ねなくても待機の間に粉と水がしっかり馴染み、自然の重力でグルテン形成を促す(これは私の勝手な解釈です)すご~くラクチンで美味しく焼けちゃう方法。そのクラスの同級生が「この教室のおかげで美味しいパンが焼けるようになって家族も大喜び。おまけに自分は洗濯物をたたむのが嫌いで放置しがちだったけど、待機の20分でたたんでタンスに収納まで完了するようになりました♡」とユーモアたっぷりにお話しされたのを聞いて、首がもげるほどうなずいたのです。パン作りもそうだけど、キッチン作業ってタイマーかけて機を待つ細切れ時間がすごく多い。デジタル表示を見つめて待つと妙に長い1分を、簡単なストレッチタイムにするもよし、シンクをささっと磨くもよし。「秋の1分ムダなく使おうキャンペーン」ご一緒しませんか?時間の節約&イライラ削減&もしかしたら脂肪も汚れも減るかもよ♪
うのまきこ| UNO Makiko 料理研究家。食品メーカーで新製品開発等に従事したのち、料理研究家・古川年巳氏に師事。わかりやすいレシピと、野菜をたっぷり使ったヘルシーで簡単な料理に定評がある。アトピーっ子のための簡単な除去食メニューも得意。コープ自然派奈良元理事長。
Table Vol.507(2024年11月)