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くらしと社会

大気圏核実験100回 —知られざる放射能汚染

2024年2月4日、脱原発ネットワーク連絡会は映画『サイレントフォールアウト』上映会を開催。上映後は伊東英朗監督にさらに詳しく話を聞きました。

伊東英朗監督(左)と司会のコープ自然派兵庫 石井常任理事
【映画について】
1950〜60年代、アメリカ合衆国ネバダ州で行われた100回の大気圏内核実験によるアメリカ大陸の放射能汚染を追ったドキュメンタリー。汚染したミルクを飲み続けた子どもたちの健康を心配した女性たちが立ち上がった。子どもたちの被ばくが科学的に証明され、ケネディ大統領は大気圏内核実験中止を宣言。
しかし、汚染源はネバダだけではなかった・・・。

自国の政府に被ばくさせられた人々

 アメリカで行われた100回の大気圏内核実験。それはつまり核兵器100発を自国に落とし国土全域を放射能で汚染したのと同じことです。さらに地下核実験は828回も行われています。特に1950〜60年代、子どもたちが強く被ばくしましたが、この事実は放射線を専門にする環境研究者にすらほとんど知られていません。国を強くするために核兵器をつくり、その核兵器で国民を被ばくさせる。「国」とはいったい何なのでしょうか。

世界中で行われた核実験

 日本では2011年の東京電力福島第一原発事故以降、各地で放射性物質測定が行われていますが、その中で福島原発事故由来ではない放射性物質が検出されることがあります。1986年に起きたチェルノブイリ原発事故に加え、世界中で行われた核実験の影響も大きくあります。先述のアメリカでの大気圏内核実験、1946年から62年まで太平洋で100回以上行われた原爆・水爆実験、さらにロシアや中国など世界中で行われた核実験の影響を受けています。太平洋での水爆実験では第五福竜丸事件が有名ですが、被ばくした船は第五福竜丸だけではなく、何万隻という船が被ばくしています。

放射能被害を証明する難しさ

 放射能は「ただちに影響はない」かもしれません。しかし確実に人々のいのちに影響します。しかも、訴訟などではその影響を被害者自身が証明しなければいけないという問題があります。これは、例えば交通事故で人が車にはねられて亡くなったとき、「本当に車が原因かどうか」被害者が証明しなければならないようなものです。
 
 第二次世界大戦中の原爆開発・製造計画であるマンハッタン計画では、800人以上の妊婦に放射性物質入りの飲み物を飲ませたり、交通事故で運ばれてきた人にプルトニウムを注射したりという人体実験が行われました。そのことが1980年代に女性ジャーナリストのスクープで発覚。当時のデータがアメリカエネルギー省のライブラリーに保管されています。このデータを読み解けば、世界中の被ばく問題のエビデンスを揃えられるほどの膨大なデータがインターネットで入手可能になっています。(監督より「読み解きに協力してくれる方はぜひ連絡を!」)

放射能汚染問題を「トレンド」に

 伊東監督は、テレビ局ディレクター時代の2004年以来、放射能汚染問題を伝えるべくテレビ番組を10本以上、映画を2本つくってきましたが、ほとんど反響はありませんでした。SDGsをはじめ環境問題への関心が高まっている昨今でさえ、放射能汚染が大きく取り上げられることはありません。「放射性物質による地球規模での環境汚染」を最重要課題と考える「トレンド」をつくり出したいというのが監督の願いです。アメリカから世界を変えるべく、今後アメリカ各地を巡る上映キャラバンを予定しています。

いのちを最優先に考える

 核兵器、原発を含めた放射能による被ばくの問題に楔を打つためには、いのちを最優先にする考え方と、それにともなった行動が必要です。映画で描かれた、女性たちが立ち上がり、ケネディ大統領を動かして大気圏内核実験を中止させる様子は、多くの観客を勇気づけてきました。私たちもいのちを最優先に考える社会をつくるために、行動の連鎖をつくりましょう。

Table Vol.501(2024年5月)

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