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巻頭インタビュー

いま改めて、協同組合の価値を考える(奈良女子大学生活環境学部准教授 青木美紗さん)

500号記念インタビューは、協同組合論を研究する奈良女子大学准教授の青木美紗さんです。生協は社会の中でどのような存在意義があり、これからどうなっていくのでしょうか。

コープ自然派の組合員でもある青木さん。「黄色の旗はバングラデシュのNGOスタッフからいただいたものですが、日本の協同組合を語るときにも使われるイラストです。独り占めするのではなく、分かち合えば資源を有効活用できることを示してくれています」
青木美紗 | AOKI Misa 
奈良女子大学生活環境学部准教授、くらしと協同の研究所研究員。専門は食料・農業経済学および協同組合論。食や一次産業のフィールドワークを通して環境や健康、地域や福祉に配慮した食の生産や持続可能な地域の在り方、地域内経済循環について研究している。

生協も、コモン

───「コモン」が注目されています。
青木 コモンとはもともと共有資源という意味で、たとえば日本の入会地(いりあいち)が有名です。村の共有地として、村人はその山から薪や落ち葉を採ってもいい代わりに、資源が枯渇しないようにみんなで責任を持って管理します。田んぼに引く水を管理する水利組合もそうですね。公助(パブリック)よりもう少し「自分たち感」があるイメージです。自治会や子ども会、PTAなどもそう。でもそのようなたすけあいの組織はどんどん少なくなっています。

───生協もコモンですか?
青木 はい。生協は購買事業を通して地域の共有資源を守っていこうという社会的意義のある組織です。例えば、添加物や農薬についてきちんと学んで、極力使わずにつくられたものを買い、社会に広げることは、自分たちの共有資源である食べものや環境、地域経済を守る活動です。そして、生協は「ひとり一票制」や、少数意見を尊重し話し合いで物事を決めていくというような、一見効率的ではないやり方を大切にしています。つまり民主主義の実践です。民主主義は手間と時間がかかるといわれますが、総合的に考えたときにいちばん効率的であり、最適解への近道。そ
れを基に事業体かつ運動体として組織化されているのが協同組合であり、共有資源を守る上で大きな価値のひとつです。

安全は努力なしに得られない

───でも、みんな毎日いそがしくて余裕のない状態です。
青木 生協の注文ひとつとっても、カタログを見て、考えて、選んで……しかも、ネオニコだの遺伝子組み換えだのと、学ばなければ書いてあることの意味も分かりません。そういう面倒くささを一つひとつクリアしていかないと、商品ひとつ選べない。それなら「何も考えずにスーパーや百均に行って買ったほうが楽」という人も中にはいるでしょうね。でも、いまコープ自然派で安全な食べものが供給されているのは、組合員が望んでいるからです。選んで買う人や意見を言う人がいなくなれば、いま供給されている安全な食べものは供給されなくなるかもしれません。「安全」も一種のコモンであり、努力なしに手に入るものではないと思うのです。自分たちが守ろうとアプローチし続けないと失ってしまうもの。失ってから気づいても遅いのです。生協の最終的な責任は組合員にあります。生協は売る組織ではなく買う組織なので、どんな商品を扱うかは組合員が何を選ぶかにかかっています。生協は組合員がちゃんと選べるように、情報を提供し、学習の機会を用意する義務があります。そして組合員には情報を得る権利があるとともに、学習し続ける責任があります。

コープ自然派のカタログ

普段の会話が価値観をつくる

青木 普段どういう会話をしているかが、その人の「当たり前」をつくっていく。言い換えると、その人の価値観を作っていきます。だから生協がしっかり情報発信をして、食べものや生産者の話が家庭の話題に上るようにすることはとても大切だと思います。そういう教育の場をつくれるのも生協の強みです。コープ自然派のカタログなんて教材として魅力的ですよね。一方で、組合員としての自覚は、「市民」としての自覚にもつながります。市民意識が全般的に弱まるなかで、組合員としての自覚だけを高めようとするのは難しいと思います。商品ひとつ買うことでもいい、署名ひとつすることでもいい。そこに意味があると意識できてこそ、コモンを維持し広げるための役割を果たしていけるのだと思います。

協同組合のこれから

青木 お金も時間もゆとりがないなかで、何に時間を使うかの判断がシビアになっていると感じます。生協は、わざわざ時間を割いてでも関わりたいと思える存在になれているでしょうか。生協で出会える人との人間関係や、知識が身について視野が広がること、自分の発言や行動が形になる達成感など、生協にはその人にとって価値ある何かが得られるたくさんの可能性があります。国連総会では2025年を、2012年に続き2回目の「国際協同組合年」とすることが決まりました。これは、すべての人にとってより豊かな世界を築くために協同組合という考え方と行動が重要であることを、もう一度多くの人に知ってもらい、協同組合や協同組合的な活動に参加してもらおうという大きな流れです。2025年はICA(国際協同組合同盟)が設立されて130周年の記念の年でもあります。これからの時代にこそ、協同組合の思想とその実践が求められています。時代に即した形で、組合員のチカラで豊かな社会を創ることにつなげていきたいですね。

Table Vol.500(2024年4月)

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