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食と農と環境

【新年インタビュー】コープ自然派2024年の抱負(コープ自然派事業連合 岸理事長)

コープ自然派事業連合の岸理事長

食・農・環境を「創造」する産直

 2023年を漢字一字で表すと、値上げの「値」だったかと思います。30年間続いたデフレがついに終わり、インフレに転換しました。しかし、賃上げが物価上昇に追いつかず、実質賃金の低下が続き、私たちの生活は苦しさを増しています。コープ自然派は価格を維持し、組合員の暮らしに貢献できるよう努めてきましたが、生産者の取り組みを支えることも考えると値上げせざるを得ないケースも増えています。コープ自然派が目指す「誰もが有機農産物を食べることができる社会」の実現に向けて、高品質・多収穫の有機農業に取り組んでいくことの重要性がますます大きくなっています。

 一昨年、コープ自然派事業連合は20周年の節目を迎えましたが、その前身から考えると約50年の歴史があります。1974年、有吉佐和子さんの『複合汚染』が朝日新聞に連載され、大きな反響を呼びました。食品添加物、農薬、合成洗剤など、さまざまな化学物質が環境や人体に蓄積され、生まれてくる子どもたちをも蝕むことを告発する内容で、危機感を持った人々が立ち上がり全国で有機農業運動や消費者運動が巻き起こりました。コープ自然派の前身も、そんな中で生まれた共同購入会です。何かに「反対」するだけではなく、自分たちがほしい安全な食べ物を「創造」し続ける、そんな消費者運動創成期のDNAを、コープ自然派はいまも持ち続けています。

さらに国産オーガニック推進!

 昭和の高度経済成長の裏で、水俣病、森永ヒ素ミルク、カネミ油症などの食品公害事件が起こり、多くの犠牲を生みました。LL(ロングライフ)牛乳運動から始まったコープ自然派の歴史の中でも、原発事故や放射能汚染問題、遺伝子組み換え食品、ゲノム編集食品、そしてネオニコチノイド系農薬や放射線育種米など、新たな問題が次々と出てきています。2006年から「国産派宣言」を掲げてきたコープ自然派ですが、国産といえども安全とはいえない状況を再認識し、「国産オーガニックの推進」へと舵を切りました。

 そのための方針のひとつが、有機農業10%構想です。現在は徳島と熊本にある「有機の学校」を全国に広げ、中核的農業者100万人のうちの10%にあたる10万人を有機農業者にすることを目指しています。

 もうひとつの方針が、日本でのオーガニック推進のネックとなっていた国産有機小麦の生産とその加工品開発です。北海道の生産者である営農企画の今城さんを中心に、国産有機小麦を拡げることで国産オーガニック推進と自給率向上を目指しています。そして、有機農業を推進して作られた農産物は、組合員に供給することはもちろん、学校給食への納入も目指しています。また、オーガニックを拡げる生協グループ「生協ネットワーク21」(組合員66万人・供給高900億円規模)の連帯を活かした共同開発もすすめます。

産地交流を生協ネットワーク21とも連携して深め、産地とともに有機10%をめざします

気候変動への対応

 世界の農業由来の温室効果ガス排出量は、総排出量の1/4近くを占めると言われ、大きな問題となっています。日本では、稲作の水田から発生するメタンガスの発生を抑制するために、中干しの延長(水田から水を抜いて干す期間を長くする)が議論されています。しかし、中干しは稲の根を傷めて米の品質や収量に影響を与え、生きものの生息域を奪います。コープ自然派の有機稲作の産地では、稲刈り後の秋処理によりメタン発生を抑制できることが明らかになっています。

 また、PFAS(有機フッ素化合物)や、水銀、カドミウムなどの重金属が心配な汚泥肥料の活用が推進される一方で、土壌のカドミウム汚染対策として放射線育種米への切り替えが兵庫県や秋田県ですすめられようとしています。放射線育種米は、放射線照射による遺伝子変異でカドミウムの吸収を阻害しますが、稲の生育に必要なマンガンなどの微量ミネラルの吸収も阻害します。

 それ以外にも、アニマルウェルフェア、脱原発、脱プラスチック、ジェンダー平等など、これから事業活動をすすめていくうえで解決すべき課題は多岐に渡ります。いのちの循環という大きな視点を持って取り組んでいきます。

有機農業による新しい社会づくり

 コープ自然派が目指す「誰もが有機農産物を食べることができる社会」は、有機農業を中心としたしあわせな社会づくりでもあります。

 昨年5月に設立した「社会福祉法人コープ自然派ともに」は、有機農業の栽培技術を習得する有機の学校と就労支援の現場が一体となった、有機農業による新しい農福連携の実践モデルの確立を目指しています。「いのち」を真ん中に置いた、障害があっても、なくても、誰もが集える共生空間、地域の福祉サービスのハブをつくりたいと考えています。

有機農業による農福連携をめざして「社会福祉法人コープ自然派ともに」が始動しました(※イメージ図)

 また、昨年4月にはコープ自然派が中心となって「一般社団法人日本有機加工食品コンソーシアム」を設立しました。有機農産物・有機食品を扱う事業者が利害や資本を越えて協力し、生産と市場の拡大を牽引していくプラットフォームで、協同組合的なwin-winなオーガニック市場の形成を目指しています。農水省とも連携して取り組みをすすめ、現在120を超える企業・団体が加盟し、大きなうねりとなりつつあります。

コープ自然派から全国に国産オーガニックを拡げる「日本有機加工食品コンソーシアム」

2024年は「飛」の年に

 コープ自然派の2030年ビジョン「PAF2030」でも、コープ自然派から国産オーガニックを拡げ、日本のオーガニック市場をつくることを掲げています。日本は豊かな森・川・海の自然循環を有しています。私たちは食べることで、日本の農業を守り、地域の自然環境や生きものを育み、食文化を継承しています。その共感の輪を広げていきたい。そして産地を知る、産地とつながるこれからの時代の産直活動を形作っていきたいと考えています。

 行き過ぎた資本主義の世界は地球の限界を超え、日本の若い世代は未来に希望を感じられなくなっています。しかし、未来への希望の提供こそがコープ自然派の役割であり、協同のチカラこそが世の中を変える原動力となるはずです。コウノトリは自然循環のシンボルで、いつの間にか国産オーガニックという物語の主人公になり、現在、300羽を超えるコウノトリが羽ばたいています。コープ自然派も他団体との連帯を深め、日本のオーガニック市場を大きく羽ばたかせる1年にしたいと思います。

何よりも、平和を

 イスラエルのパレスチナ・ガザ地区攻撃は、多くの人命を奪い、改めて平和の尊さを考えさせられる機会となりました。日本国憲法前文に平和的生存権を掲げる日本こそが、世界に向けて停戦を呼びかけなければならなかった。国連総会での「人道的休戦」を要求する決議案に「棄権」という姿勢を示したことは非常に残念でした。

 自由・平等・平和・人権・民主主義は、憲法が国家権力を制限することによって保障されています。戦前、国家権力の介入により多くの市民活動が制限され、日本の民主主義は大きく後退することになりました。私たちは生協の父・賀川豊彦の「友愛・互助・平和」の精神と、運動の中で勝ち取ってきた権利の数々をいま一度思い返す必要があります。世界中の尊いいのちと大切な暮らしが奪われることがないよう、祈りを声と行動に変えていきたいと思います。

Table Vol.497(2024年1月)より
一部修正・加筆

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