2023年9月19日、コープ自然派兵庫(ビジョン未来)は、FoE Japan満田夏花(みつたかんな)さんを講師にGX関連法を紐解き、問題点を聴きました。
※GX(グリーントランスフォーメーション):脱炭素社会の実現に向けて産業構造や社会システムを変革させ持続可能な成長を目指すこと。
満田さんはFoE Japan(フレンズ・オブ・ジ・アース・ジャパン)の事務局長として地球規模の環境問題に取り組んでいます。1980年から気候変動とエネルギー、原発と福島支援、森林保全などをテーマに活動し、2012年からは保養プログラム「福島ぽかぽかプロジェクト」の実施と交流を通して原発事故の今を伝えています。また、様々な角度から「見えない化」された福島原発事故の被害を「ミエルカプロジェクト」として被災者の声を国内、そして世界に届けています。
民意不在のまま
2022年8月、GX実行会議で岸田首相が原発推進方針を打ち出し、原発の7基追加再稼働と運転期間延長の検討とともに、次世代革新炉による原発の増設や建て替えが検討されました。そして、首相の指示からわずか4カ月で基本方針や行動指針が取りまとめられ、原発の運転延長やGX基本方針などがパブリックコメント(一般意見公募)にかけられました。多くの反対意見が寄せられましたが国民の意見に耳を傾けることなく、2023年5月12日には、GX推進法が、5月31日にはGX脱炭素電源法案が国会で可決成立しました。ウクライナ情勢、国際的なエネルギー燃料価格の高騰など様々な原因で電気代が高騰したため原発推進が必要とされましたが、原発の高いコストやリスクを考えれば、原発はこれらの問題を解決しないどころか真逆の効果を生み出すのではないでしょうか。
GX推進法とは
GX推進法とは「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」です。一言でいえば、多くのお金をGX分野に流し込むという法律。20兆円の国債を発行し、それを呼び水として150兆円規模の官民の投資を生み出すと言われています。満田さんは「一番の問題は脱炭素と経済成長を同時に実現すると経済産業省が決めているところ。なぜ経済産業省なのでしょうか」と。また、脱炭素基準や環境・人権への配慮基準が不在であることも問題です。
GX脱炭素電源法案(束ね法案)とは
「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案(以下、GX脱炭素電源法案)」は、一つの法律ではなく、原子力基本法、電気事業法、原子炉等規制法、再処理法、再エネ特措法の5つの法律の改正案を束ねたものです。束ねることにより、個別・具体的に国会で審議することのないまま可決成立しました。特に、老朽化した原発を含む原発の運転期間延長について、その認可権限を原子力規制委員会から経済産業省に移したことは大きな問題です。また、原子力基本法を改正し、原発の活用を国の責務として国が原子力推進のための様々な支援を行うことが盛り込まれました。
原発は気候変動対策にならない
原発は運転時にCO²を排出しないため気候変動対策として国は原発を推進していますが、原発を稼働すれば行先のない核のゴミが増え続けます。核燃料サイクルはすでに破綻し、原発の建設費用や安全対策などの原発コストも増加しています。「原発に頼るということは電力を大量消費する構造になり、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の普及を妨げ、原発に頼っている国はCO²削減に失敗します」と満田さんは語りました。原発を止めてもCO²を削減することは可能です。再エネによる乱開発は本末転倒ですが、地域に根付いた再エネを上手に使っていくことが求められています。
原発事故は終わっていない
満田さんは「原発事故を引き起こしたのは東京電力と国であり、その責任が曖昧なまま原発を推進していいのでしょうか。いまだ多くの方が大切なものを失ったままです。原発のリスクは国民および将来世代に回されます。各地での原発反対運動を粘り強く続けていきましょう」と市民力に訴えかけました。
Table Vol.496(2023年12月)