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食と農と環境

誰もが有機農産物を食べることができる社会へ

2023年2月3日(金)、コープ自然派事業連合産直委員会は有限会社営農企画・今城正春さんを北海道から招いて学習会を開催。
小麦・大豆の大規模オーガニック畑や堆肥場、食品加工工場の運営について聴き、「誰もが有機農産物を食べることができる社会」について話し合いました。

有限会社営農企画取締役専務・今城正春さんが運営する「いましろオーガニックファーム」は、「誰のためにつくるのか」を理念に食べる人が健康になり満足できる商品づくりに励んでいます。
(左)連合産直委員会の活動について説明するコープ自然派京都・筆口常任理事。
(右)司会進行を務めたコープ自然派おおさか・白仁田常任理事。

時代を読み農業に転身

 今城さんが運営する「いましろオーガニックファーム」は北海道中央部、旭川市に隣接した比布(ピップ)町と当麻町に約200haの農地(うち、有機認証農地115haでは有機小麦、有機大豆・黒大豆・小豆、有機もち麦、有機なたねを栽培)をもつ大規模農家です。自然派Styleオーガニックハードトースト自然派Style国産有機豆腐(今城さん大豆使用)など今城さんの有機小麦や有機大豆を使った商品が組合員に人気です。

 今城さんは42歳で「(有)営農企画」を立ち上げ農業経営に参入、デパートなどの陳列棚を手掛ける店舗設備の会社経営からの転身でした。通信販売やインターネット普及など時代の変化による店舗販売の縮小をいち早く予想した今城さんは、「人類がいる限り食べものは必要」と就農を決意。「農業の知識がなく、草刈りをする時期すらわからないような状態で、農業を営む同級生たちからは『お前にできるわけがない』と笑われました」と今城さん。当初、法人格がなかなか認められず、設備購入のための融資も受けられませんでしたが、店舗設備の会社経営を続けながら、その収入で農機具を購入するなど高額な設備投資を行って農業規模を広げていきます。周囲からはそんな今城さんに妬みや嫌がらせがあり、苦労が多かったということです。

自社生産と設備投資

 「誰でも食べられる有機農産物」をつくることを目標にする今城さんは、栽培から加工、販売まですべてを自社で行い、積極的に設備投資することで販売価格を抑えています。栽培コストを下げるため、今城さんは近隣町村から排出される有機廃棄物を使った堆肥による環境保全型の大規模有機農業を確立。しかし、屋外での堆肥づくりは天候に左右されるため、完熟化が思うように進みません。そこで、屋内型の完熟堆肥製造プラントを新設。撹拌機とヒーターで発酵促進を自動で行い、短時間で上質な堆肥を大量につくることができる最新の堆肥工場を導入しました。また、「いましろオーガニックファーム」では今城さんと息子の浩貴さんの2人で広大な畑を管理しています。種まきはGPSを利用した自動運転の真空播種機で行い、横幅6メートルある米国製大型コンバインや海外製の堆肥散布機などを使用し効率化を促進。さらに、有機JAS認証を取得した農作物乾燥調整施設・堆肥製造センター・農産物定温倉庫や微生物培養施設を自社で運用することで、コストを削減しています。

日本の農業を支える力

 農水省は「みどりの食料システム戦略」で2050年までに有機農業の面積割合を25%に拡大することを目標に掲げました(現在、0.6%)。しかし、現在、化学肥料が高騰し、世界で肥料の奪い合いが始まっています。「今後十数年で日本に食料危機が起きるでしょう。今年はそばが中国から輸入されていません。農薬の心配どころではない時代がくるのです。日本の農業を支えるしくみを確立し、消費者の力で買い支えなければ日本の農業は守れません」と今城さんは話します。

 土壌は自分の腸と同じだと考え農業に取り組んでいると今城さんは言います。腸内に善玉菌と悪玉菌がいるように畑にも有用微生物と有害微生物がいて、それらがバランスよく活動することで腸内と土壌は健康に保たれます。有機農業は自然を味方につけた農法ですが、慣行栽培は予防のために大量の農薬を使い土壌を不健康にして自然と対峙する農業です。

 従来、小麦は連作障害の問題から大豆やジャガイモなどとの輪作で栽培します。しかし、収穫量の差などから有機農業の輪作が難しいため、今城さんは上質な堆肥を畑に投入することで麦だけの連作技術を確立、固定観念を打ち破る今城さんの挑戦は続きます。

有機小麦1000トンへ

 続いて、「有機小麦1000トンプロジェクト」の取り組みについてコープブレッドファーム・小泉佳久さんが話します。2012年のロンドンオリンピックから選手村でアスリートに提供される食材に、グローバルGAP認証(世界基準の安全かつ高品質な農産物である農業生産工程管理認証)またはオーガニック、アニマルウェルフェアなどが調達基準として定められました。当時、日本でも東京オリンピックに向けてオーガニック拡大の機運が高まりつつありました。コープ自然派でも有機小麦を調達するため、小泉さん、コープ有機・佐伯さんと福井さん(当時、パン工房工場長)たちは北海道をはじめ全国を周り、有機の生産者を探していました。そのような中、すでに大規模有機農業を確立していた今城さんと出会います。そして、北海道に役職員が何度も通い、今城さんと関係性を築いて行きました。「取引を始める前に、今城さんから『原材料だけの供給は嫌ですよ』とはっきり意思表示があり、『いましろオーガニックファーム』ブランドの価値を理解し、”今城さんの先進性“をどう伝えるかがコープ自然派の使命と考えました」と小泉さん。商品案内で「いましろオーガニックファーム」の加工食品(オーガニックどら焼き・オーガニッククリーミーSOYアイスなど)や有機小麦粉、有機大豆、また「今城さんの仲間たちのお米」などを今城さんの特性とともに伝えています。

今城さんとコープ自然派との出会いについてユーモアたっぷりに話す株式会社コープブレッドファーム代表取締役社長・小泉佳久さん(元コープ自然派事業連合理事長)。

現在、コープ自然派でパンなどに使用している有機小麦粉の量は80トン〜100トンです。4年後の実現に向けた「有機小麦1000トンプロジェクト」の提案を今城さんから受け、コープ自然派で国産有機小麦の販売量をどう増やしていくかが大きな課題になりました。そこで、コープ自然派での利用を広げるとともに、「生協ネットワーク21」(8生協、2事業連合が商品政策や運動で協同)加盟生協やオーガニックを取り扱うスーパーなども受け皿として販路を広げることで、有機小麦1000トンへの道を開いていきます。

(左)「農水省からの申し出もあり、コープ自然派の生産者やコープ有機、大手企業、友好生協等とともに『日本有機加工食品コンソーシアム(仮称)』を設立し、日本のオーガニック市場を拡大していきます」と挨拶するコープ自然派事業連合・岸理事長。
(右)今城さんと小泉さんのトークセッションの進行を務めた連合産直委員会・辰巳委員長(コープ自然派事業連合副理事長)、ネオニコチノイド系農薬フリーの活動を全国の友好生協生産者とともにすすめています。

Vol.484(2023年3月)より
一部修正・加筆

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