2021年12月5日(日)、コープ自然派兵庫などが実行委員会を結成し、「いのちとくらしの映画祭with山田勝治さん講演会」を開催、「誰もが希望を持てる社会へ」をテーマに「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」上映と大阪府立西成高等学校校長・山田勝治さん講演会が行われました。
教育の原点は人権教育
山田さんの教育の原点は、初任校で生徒が差別される現場に立ち会ったことでした。それは、高校2年生の女子生徒に送られた被差別部落について中傷する手紙で、「驚きと怒り、頭を殴られたような衝撃がありました」と山田さん。また、在日コリアンのハルモニ(おばあさん)たちへの成人識字教室の15年間の運営がもう1つの原点です。
西成高校は障がいがある生徒や外国にルーツがある生徒などさまざまな立場の生徒が学ぶ大阪府のエンパワメントスクールです。所在地の西成区は日本最大の寄せ場(日雇労働力が取り引きされる場所)である釜ヶ崎や被差別部落もあることからさまざまな社会問題が顕在化しやすく、マイナスのイメージを持たれる地域でもあります。
現在、子どもの貧困率は全国平均13.8%、兵庫県15.4%、1位の沖縄37.5%、2位の大阪21.8%。「子供の貧困対策に関する大綱」(2014年)は子どもの将来が生まれ育った環境に左右されることがないよう、環境整備と教育の機会均等を図る目的でつくられました。それに伴い、子ども食堂や学習支援などが取り組まれていますが、国による支援が足りず、保護者に対する支援も脆弱です。子どもたちの生活は自宅にあり、保護者支援を行わなければ貧困問題は解決しません。
西成高校では約10年前から「生活と人権アンケート」を行い、当時は「自宅に学習机がない」生徒が4人に1人でした。現在、2割の家庭でインターネット環境が整っていません。アンケート直前の3日間の食事のうち、1日に1食も食べない日がある生徒が4人、1日1食だけという生徒が16人、3日で4食が20人の結果に(全校生徒550人)。先進国の子どもの飢えは、貧困だけが理由ではなく、虐待が絡んでいるとのこと。西成高校は貧困・虐待の問題を抱えた生徒たちが多数入学してくるため、教員たちはその生徒たちが食事をとれているか特に気をつけ見守っています。
居場所づくりと支援活動
西成高校では学校を嫌いにならないよう教科学習以外に価値をおく学校を目ざして、文化祭や体育祭、修学旅行などの行事を大切にしています。また、外部の人たちと連携して地域に開かれた教育活動を進め、社会福祉事業所と連携してボランティア活動なども実施。3年前から始めた「アルバイト支援」では、キャリアコーディネーターによるガイダンスで個別面談を行い、面接やどのような職種が向いているかアドバイスやアフターフォローなど、労働することを経験できるよう支援しています。日本初の「校内居場所カフェ」を10年前から始め、校内でありながら学校ではない場所、誰にも相談できないこと、困っていることを話せる場所をつくりました。カフェには担当スタッフが数名いますが、山田さんと生徒支援担当以外の教員は入れません。円卓を囲み楽しく会話する生徒、静かにゲームをする生徒など、多い時は廊下まで生徒があふれるほど人気だということです。また、カフェは困ったことが起きる前に支援する「予防支援」にもつながっています。
エンパワする西成高校
小学校時代から学習と遠ざかっていた生徒たちに、「できた」という実感を持ってもらい、自信と学習機会を取り戻すという目的のもとでエンパワメントスクールが運営されています。罰を与える、厳しく指導する(叱咤激励)のではなく、自覚し自ら行動することが大切で、自覚を持てるよう生徒たちをほめます。できたことを認めることで取り戻せる力があるというのが西成高校の考え方です。
今までの教育は知識を詰め込み、社会に適応するためのものでした。教育とは、生き方や考え方、人との付き合い方を学び身に付け、生徒の自立を支援することです。「今後、西成高校は起業家教育に取り組んでいきます。社会にどういう問題があり、どのようなニーズがあるか気づける教育、社会を変える教育です。子どもたちを分断する能力主義に疑問をもち、社会の中の自分の役割を考え発言できる、生徒たちが権利主体としての力を身につけられる、民主主義の学校を目ざします」と山田さんは締めくくりました。
Table Vol.459(2022年3月)より
一部修正・加筆