コープ自然派おおさか組合員・佳山明さん主演の「37セカンズ」が第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門で観客賞と国際アートシアター連盟賞をW受賞するなど世界中の国際映画祭で大きな話題を集めています。
脳性麻痺で車椅子生活を送るユマは、親友で漫画家・SAYAKAのゴーストライターとして働く職場と、母・恭子とともに暮らす家との往復の毎日。ユマは漫画家として独立しようと仕方なくアダルト漫画を雑誌社に持ち込みます。しかし、「作家に経験がないのに、良い作品はつくれない」と雑誌編集長に言われたことから、自ら行動を起こし、傷つきながらも障がい者専門デリヘル嬢の舞、介護福祉士の俊哉との出会いによって新たな世界へと前進していきます。
本作が長編映画デビューとなるHIKARI監督はUSC(南カリフォルニア大学)大学院で映画芸術を学び、LAと東京を拠点に活躍する映像作家。ユマ役の佳山さんは一般オーディションによる書類選考から絞られた100名の中から選ばれ、本作が演技初挑戦となります。当初、交通事故で脊髄損傷を負った女性を主人公にした脚本が用意されていましたが、HIKARI監督は佳山さんとの出会いにより主人公の設定を佳山さんと同じ、脳性麻痺によって下半身に障がいが残ったという設定に変更。あらすじの3分の1が佳山さんの生い立ちにインスパイアされて生まれ変わったということです。タイトルの「37セカンズ」は出生時に佳山さんが37秒間息をしていなかったことが障がいの原因になったというエピソードがもとになっています。
佳山さんと恭子役の神野三鈴さんは撮影前に生活をともにし、母娘の役づくりを準備しました。佳山さんのお母さんからのアドバイスもあり、作品内での入浴・食事シーンはリアルで繊細なカメラワークが秀逸。漫画の構想を練るシーンは、アニメーションと実写を融合して映像化することで、ユマから溢れ出る創造力とワクワク感が宇宙的な広がりを見せる見事な演出です。使用されている音楽は映画の舞台となる夜の繁華街や漫画などのサブカル的な世界観とマッチし、深刻なテーマをポップに前向きに捉える役割を果たしています。
「ある女性の自立する映画を撮りたかった」というHIKARI監督。ユマと母親恭子、ユマと親友SAYAKAとの依存し合う関係からユマは自立の道を模索し始め、とまどい妨害する恭子とSAYAKAから逃れようとするユマの強さが爽快感を与えます。アダルト漫画雑誌編集長とデリヘル嬢の舞は性についてハッキリ語れる自立した女性として描かれ、ユマの服装・髪型・メイクなどの変貌に不快感を示す恭子とは対象的です。
障がい者の性を描きつつストーリーは展開していきますが、全体を貫くテーマはひとりの女性が自力で道を切り開くというもの。すべての女性に共通する悩みや問題として共感を呼ぶ作品です。
※ 2月7日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都など全国ロードショー。
Table Vol.408(2020年1月)