2024年9月16日、コープ自然派兵庫(ビジョン環境)は、龍谷大学教授・大島堅一さんを招いて原子力発電(原発)に頼らないエネルギー政策と気候変動対策について聞きました。
原発は気候変動対策にならない
世界では2030年代に電源、2050年までに全エネルギーの脱炭素化をめざしています。日本は原発で脱炭素化を図
ろうとしており、2021年につくられた第6次エネルギー基本計画では、2030年の電力需要の20〜22%を原発でまかなう計画を立てています。これは、国内すべての原発を仮に60年運転で再稼働したとしても新設が必要な目標値です。原発の建設には10年〜20年かかり、いまから建設しても2030年には間に合いません。「事故が起きると被害が大きく、廃炉や放射性廃棄物の処分、長期にわたる取り組みが必要な原発は、コスト、環境への影響、安全性どれをとっても、気候変動対策としては使えません」と大島さんは話します。
再エネのポテンシャル
世界123か国、25年間のデータ分析により、原子力発電量の多さではなく、再生可能エネルギー(再エネ)導入量の多さがCO2排出削減に影響を与えることが明らかになりました。政府はバランスの良いエネルギー構成を目指して「原発も再エネも」といいますが、大島さんによると「大規模集中型の原発と、小規模分散型の再エネは、電力システムの最適化のあり方が違うので、共存は難しい」とのこと。脱炭素をめざすなら、原発ではなく再エネに舵を切る必要があります。
再エネ100%は実現可能
再エネは、発電量が増えても燃料費はゼロで、原発のようにコストはかかりません。「不安定で信頼性が低い」、「技術的に不可能」といわれた時代もありましたが、大島さんは「電気の100%再エネ化は実現可能なあたりまえの目標であり、真の目標はさらに上、全エネルギーの再エネ化」だといいます。その鍵になるのは「フレキシビリティー(柔軟性)」です。風力や太陽光といった変動性の再エネは、時間や気象条件によって発電量が増減することが課題とされてきましたが、それに合わせて消費量を柔軟に増減できれば解決できます。例えば、バッテリーや揚水発電を用いて需要と供給の調整を行ったり、価格により需要を増減させる方法が考えられます。「ヨーロッパでは、電気が余るとマイナス価格になり、消費者はお金をもらいながら電気を使うこともあるんですよ」と大島さん。南オーストラリア州では、はっきりとした脱炭素の目標と、公正なルール、そして新しい技術の導入によって、2007年には電源構成でたった1%だった再エネが2023年には74%まで飛躍的に上昇しました。
再エネこそが現実的なエネルギー政策
世界ではRE100(使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な取り組み)など、民間企業へも脱炭素が要請されており、原発や火力発電は認められない時代です。しかし日本は2023年のGX関連法でも原子力推進を謳うなど時代に逆行しています。このまま原発の新設や活用が進めば、22世紀、23世紀の未来をも廃炉や放射性廃棄物処分の問題で縛ることになります。
2011年の福島原発事故の被害は13年を経たいまでも残り、廃炉処理の目途も立っていません。原発による被害の特徴である、被害が大きく元に戻らないこと(不可逆)、被害や影響が不均等に発生すること(不平等)、世代を超えて被害が及ぶこと(世代を超えた被害)は、気候変動問題と共通しています。先延ばしにして市民・次世代にツケを回す「無責任」の構造と、情報が隠され市民の目が届かないところで意思決定される「不可視化」の構造が、根本的な方向転換を阻んでいます。大島さんは「原発ではなく、再エネこそが現実的な脱炭素の方法です。政府に対し政策変更を求め、社会システムを作り替えていきましょう」と締めくくりました。
Table Vol.507(2024年11月)